インタビュー

#01 小林弘明准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

挑戦者たちの素顔 小林 弘明 メイン 挑戦者たちの素顔 小林 弘明 メイン

異分野との積極的な交流を
インスピレーションの源として。

#01小林 弘明

KOBAYASHI, Hiroaki
北海道大学
大学院理学研究院
(前)東北大学
多元物質科学研究所
CHAPTER 1

触媒材料から磁性体、そして二次電池の研究へ。

持続可能な発展をめざし、社会全体でさまざまな取り組みが進められているSDGs。そこで掲げられている目標の一つに、“エネルギーをみんなに そしてクリーンに”がある。持続可能で近代的なエネルギーのアクセスを確保する、そのための研究に取り組む若手研究者の一人が、東北大学多元物質科学研究所の小林弘明講師だ。

小林講師は東京大学工学部、東京大学大学院総合文化研究科、同工学系研究科を経て、2017年4月、東北大学多元物質科学研究所に助教として着任した。学部生時代は、モノづくりの化学に関心を持ち、触媒の研究に取り組む水野哲孝研究室に所属、有機化合物とアンモニアを反応させる触媒開発研究に取り組んだ。修士課程では、「もっと幅広く知見を広めたい」という思いから、小島憲道研究室で磁性体の研究に取り組んだ。現在メインで研究を進めている電池の分野に足を踏み入れたのは、博士課程に進学してからだという。

「電池研究に関しても、有機蓄電池、コバルトフリーのリチウムイオン電池、マグネシウム蓄電池など、さまざまな研究テーマに取り組んでいますが、 “材料科学”という視点から見れば、それらはすべて共通の土台をもった研究です。違うのは、応用先が何かという点。触媒に使える材料をつくるのか、磁性に使える材料をつくるのか、電池に使える材料をつくるのか、というだけの違いであり、根本にあるものは、初めて研究室に所属した工学部4年次の頃から変わらず、初志貫徹しています」。

CHAPTER 2

次世代エネルギーデバイスの分野で世界のトップランナーをめざす。

小林講師はいま、次世代電池の分野を中心に、レアメタルフリー電池、高エネルギーリチウムイオン電池、マグネシウム蓄電池、水系亜鉛イオン電池、導電性有機物電池、3Dプリント固体電池、水・二酸化炭素分解触媒など、多種多様な研究に取り組んでいる。次世代電池の研究分野は世界中に多くのプレイヤーがいるというが、その中で小林講師の強みはどんな点にあるのだろう。

「電池はいろいろなサイエンス、ケミストリーが組み合わさってできるものだけに、研究に際してはいろいろな視点が必要になってきます。それを持っているというのがとても重要で、何かよくわからない変化が起きた時に、こちらの視点から見ると説明できるのではないか、という発想を持てるのは自分の強みであり、アドバンテージになっていると思います」。

触媒や磁性体の研究から電池研究の世界へ。そうした道のりを経たことで培われた多様なバックグラウンド。「異なる分野の観点を電池に取り入れることで、新しい概念ができるのではないかというのが、インスピレーションとして生まれてきたりする。浅く広くではあっても、いろいろなバックグラウンドがあるというのは、けっして悪いことではないのです」。

次世代電池の研究分野には世界中にたくさんのプレイヤーがいる。その一方で、2019年、リチウムイオン電池の発明に携わった3人の研究者がノーベル化学賞を受賞したことで、この分野の研究はすでに一定の到達点に達したと考える研究者もいるという。「もう一つ先をめざすことを止めてしまえば、それによって、科学技術自体が廃れてしまうということもあるのではないでしょうか。リチウムイオン電池には、高機能化、低コスト化、より高い安全性の追求などまだ多くの課題があり、さらに次世代のエネルギーデバイスの研究もある。世界中に多くのプレイヤーがいる分野だけに、異分野との融合も図りながら、誰も考えつかないようなことを着想し、しっかり研究することで世界のトップランナーをめざしたいと考えています」。

CHAPTER 3

伝える、耳を傾ける。研究者には交流の場が不可欠。

東北大学着任以来、小林講師は“クロスオーバーアライアンス”での活動にも積極的に関わってきた。その一つが、“物質・デバイス領域共同研究拠点”における、アライアンス若手研究者交流会の開催だ。小林講師は現在10個程度の研究テーマを進めているというが、すべてが自身100%のオリジナル研究ではない。そのいくつかは、アイデアをもつ他分野の研究者との積極的なコラボレーションによって生まれたものだという。

「電池については深い知識を持っていますが、他の分野の知識はそれほど持ってはいません。自分のもっている材料がもしかしたら他のところに使えるかもしれない、というのは感じながらも、実際のところ詳細まではわからない。その意味で、他分野の専門家に声を掛けたり、話を聞いたりするのはとても重要だと考えています。若手の研究者はたくさんのアイデアを持っています。だからこそ、それを眠らせるのではなく、意欲のある方と積極的に連携し研究を発展させていくことが大事なのです」。

こうしたコラボレーションの中から生まれた果実もある。その一つが、電極触媒を専門とする東京工業大学の菅原勇貴助教との共同研究だ。「“クロスオーバーアライアンス”での菅原助教の発表を聞き、私の持っている材料とコラボレーションすると面白い研究ができると思いました。私の方からお声掛けさせていただき、若手支援プログラムの採択課題として共同研究を行うことができました。私たち材料科学研究者には『いいモノをつくりたい』という共通の思いがあります。それがコラボレーションの土台になるのです」。

「インスピレーションは人とのつながりから得られる」を座右の銘とする小林講師。「大切なのは、知識の放出と知識の吸収を相互的にやること」だという。「それがなければ、研究者としての成長が止まってしまいます。学会ごとに若手の会のようなものはありますが、全国規模で、しかも広い分野で若手が集まるというのはなかなかありません。“クロスオーバーアライアンス”からそうした場を提供していただけるのは、私にとって非常にうれしいことです。また東北大学には学部を超えた研究所間の交流もあり、若手間の交流を後押ししてくれていると感じています」。

CHAPTER 4

次々世代のエネルギーデバイス開発を目標に。

 

小林講師が現在取り組んでいるのは、次世代エネルギーデバイスの研究が中心だ。現行のリチウムイオン電池の性能を少しでも向上させることができれば、市場価値をかなり上げることができるが、そうした研究テーマは少ないという。「新しいサイエンスを開拓したいという気持ちが強い」と話す小林講師。その先駆的な研究が評価され、2022年2月には東北大学プロミネントリサーチフェローの称号を付与されている。その視線はいま、どんな研究に向けられているのだろう。

「私が興味をもっているのは次世代の電池のさらに先にある “次々世代電池”の研究です。実用化できるのかどうかも分かりませんし、実用化したとしてもかなり先かもしれません。それでも、難易度の高い、チャレンジングな研究に取り組んでいきたい、という思いが私のなかにあります。また材料科学の世界にとどまることなく、人文科学や社会科学の世界にも目を向けることで、新しいインスピレーションが生まれることもあります。それを重ねていくことで、自分の中で徐々に熟成され、ある時に実を結んだりする。そんな可能性を信じながら、研究に立ち向かっていきたいと思います」。

OFFTIME TALK

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    ウィークエンドの過ごし方

    週末は趣味の料理の時間を。

    休日は家族での時間を楽しむことを大切にしています。料理が好きなので、土曜のブランチは私がよくガレットを作ります。夕食は妻と一緒に、パエリアやビーフシチューなどの家庭料理を作っています。味や栄養バランスも考えながら調理。妻とは味の好みも近いので、2人で味見をしながら楽しく料理しています。

  • ティーブレイク

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    茶葉にもこだわって。

    ブレイクタイムは紅茶派。一番のお気に入りは、煮出して作るロイヤルミルクティーです。研究の合間など、気分転換のために淹れる一杯の紅茶。研究室ではティーバッグを利用していますが、家では様々な紅茶専門店から購入した紅茶のコーナーがあり、茶葉の飲み比べを楽しんでいます。

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    いつかノルウェージャンフォレストキャットと。

    妻の実家はアメリカンショートヘアーと暮らしていて、猫との暮らしに憧れています。現在の住まいでは実現していませんが、いつかはノルウェージャンフォレストキャットと一緒に暮らし、休日はあのもふもふのいる空間で癒されたい。そんなことを思いながら、YouTubeなどで猫の日常動画を楽しんでいます。

小林 弘明KOBAYASHI, Hiroaki

北海道大学 大学院理学研究院
化学部門 准教授
 
(前)東北大学 多元物質科学研究所
金属資源プロセス研究センター エネルギーデバイス化学研究分野 講師

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