機械工学から材料科学の世界へ。
ありとあらゆる生命の源となる水。安全安心な水がいつでも手に入る日本、しかし世界を俯瞰すると水資源は様々な課題を抱えている。水問題の解決は、SDGsでも持続可能な発展をめざす目標の一つに挙げられている。水に対する様々な課題解決に材料から取り組む研究者たち。大阪大学高等共創研究院・産業科学研究所の後藤知代准教授は、セラミックスという、ありふれているが奥深い材料から水問題にアプローチする若手研究者の一人である。
後藤准教授は近畿大学生物理工学部、奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科を経て名古屋大学大学院工学研究科の博士課程で学んだ経歴をもつ。 「学部生時代は機械工学を学び、指導教官の速水尚教授の勧めで化学へ転向、大学院では材料科学を学びました。大学や研究テーマは3度変わりましたが、学部時代から大学院まで研究対象は一貫して骨の成分としても知られるハイドロキシアパタイトです」。
修士課程では谷原正夫教授の研究室で軟骨再生用材料の研究を学び、博士課程では大槻主税教授に師事しハイドロキシアパタイトの結晶を作る面白さにのめり込んだ。セラミックス合成分野ではポピュラーな「水熱合成法」、このシンプルだが奥の深い材料合成技術を極めつつ、より広く役に立てる材料の開発を目指した。
「水熱合成法は、シンプルですが奥が深い。選ぶ条件によって様々な面白い材料が生み出せます。合成実験は料理と似ているかもしれません。同じ調理器具を使っても、食材や調味料、シェフの手順が違うと全く違うものができる。水熱容器のオートクレーブは圧力鍋に近いもので、内部を高温・高圧状態にして結晶を合成できます。短時間で結晶材料を得ることができ、結晶の形や、さらには機能も容易に変えることができる。そこが魅力です」。 博士号取得後、九州大学大学院工学研究院、産業技術総合研究所の研究員を経て、2015年に大阪大学産業科学研究所に助教として着任、2021年4月からは高等共創研究院准教授として研究を続けている。