電子顕微鏡の力で未踏領域の材料を明らかに。
化学工業は人類に多大なる利便性、快適性をもたらしてきた。一方で、化学製品を生み出す過程で膨大なエネルギーが消費されている現状を考えると、SDGsで提唱されている持続可能な社会を実現するうえで大きな課題として捉えられている。化学合成の分野では反応過程でのエネルギー消費を大幅に削減するために“触媒”が用いられているが、これまでに長い歴史の中で様々な材料が探索されてきた。さらに“触媒”は、排気ガス吸着や二次電池の酸化還元反応活性化にも有効であり、環境エネルギー分野でますます重要になってきている。この“触媒”合金を化学の分野から自在な大きさで合成し、未踏領域で新たな触媒を探し出したい。その中でもナノとミクロの間、サブナノ未踏領域の合金触媒が生み出す新たな機能と構造の解明に挑む若手研究者の一人が、東京科学大学総合研究院化学生命科学研究所・分子機能化学領域の今岡享稔准教授だ。
今岡准教授は慶応義塾大学理工学部化学科で化学や材料に携わる基礎研究を行ってきた。更なる研究の高みを目指すため、同大学の大学院博士課程に進学し、高分子やその金属錯体の合成と物性に関する研究を行い、2005年の3月に博士の学位を取得した。その後は助手として2009年まで在籍したのち、恩師でもある山元教授の東京工業大学への異動と共に、2010年より東京工業大学資源科学研究所(当時の研究所名、現在の総合研究院化学生命科学研究所)の助教に着任した。助教の間は、高分子やその金属錯体を活用した機能創出、例えば太陽電池で代表される光電変換の研究に従事していた。2014年に同研究所の准教授に昇進した頃から、少しずつ大きな夢に向かいたいという気持ちが芽生えてきた。
「20年〜30年と続くような革新的な研究を行い、これまでにない物質を生み出したい。その思いから、これまでの研究実績を生かして、当時まったく未開拓であった担持金属クラスターの研究に取り組もうと考えました。」
「金属クラスターの研究は1960年代から始まり、意外と歴史のある分野なのですが、その中でも担持金属クラスターの化学が長い間未開拓であった理由は、特に近年登場した担持金属クラスターが従来のクラスター化学の常識に当てはまらず、配位子による表面安定化がなく、明確な物質構造を決定できなかったためなのです。」