インタビュー

#03 今岡享稔准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

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持続可能社会をサブナノ領域のフロンティア化学で実現したい。電顕を活用し、異分野とのコラボを。

#03今岡 享稔

IMAOKA, Takane
東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所
CHAPTER 1

電子顕微鏡の力で未踏領域の材料を明らかに。

化学工業は人類に多大なる利便性、快適性をもたらしてきた。一方で、化学製品を生み出す過程で膨大なエネルギーが消費されている現状を考えると、SDGsで提唱されている持続可能な社会を実現するうえで大きな課題として捉えられている。化学合成の分野では反応過程でのエネルギー消費を大幅に削減するために“触媒”が用いられているが、これまでに長い歴史の中で様々な材料が探索されてきた。さらに“触媒”は、排気ガス吸着や二次電池の酸化還元反応活性化にも有効であり、環境エネルギー分野でますます重要になってきている。この“触媒”合金を化学の分野から自在な大きさで合成し、未踏領域で新たな触媒を探し出したい。その中でもナノとミクロの間、サブナノ未踏領域の合金触媒が生み出す新たな機能と構造の解明に挑む若手研究者の一人が、東京科学大学総合研究院化学生命科学研究所・分子機能化学領域の今岡享稔准教授だ。

今岡准教授は慶応義塾大学理工学部化学科で化学や材料に携わる基礎研究を行ってきた。更なる研究の高みを目指すため、同大学の大学院博士課程に進学し、高分子やその金属錯体の合成と物性に関する研究を行い、2005年の3月に博士の学位を取得した。その後は助手として2009年まで在籍したのち、恩師でもある山元教授の東京工業大学への異動と共に、2010年より東京工業大学資源科学研究所(当時の研究所名、現在の総合研究院化学生命科学研究所)の助教に着任した。助教の間は、高分子やその金属錯体を活用した機能創出、例えば太陽電池で代表される光電変換の研究に従事していた。2014年に同研究所の准教授に昇進した頃から、少しずつ大きな夢に向かいたいという気持ちが芽生えてきた。

「20年〜30年と続くような革新的な研究を行い、これまでにない物質を生み出したい。その思いから、これまでの研究実績を生かして、当時まったく未開拓であった担持金属クラスターの研究に取り組もうと考えました。」
「金属クラスターの研究は1960年代から始まり、意外と歴史のある分野なのですが、その中でも担持金属クラスターの化学が長い間未開拓であった理由は、特に近年登場した担持金属クラスターが従来のクラスター化学の常識に当てはまらず、配位子による表面安定化がなく、明確な物質構造を決定できなかったためなのです。」

CHAPTER 2

正体不明の金属原子クラスターをこの目で「観た」。

 

今岡准教授はいま、金属原子が数個から数十個集まってできたクラスターと呼ばれる物質の構造研究に取り組んでいる。このような物質は環境・エネルギーから情報・エレクトロニクス分野等への幅広い応用が期待されているが、特に触媒はその有望な応用先の一つである。近年、ある組成のクラスターが二酸化炭素の還元触媒として極めて有効であることが見出され、非常に温和な条件、すなわち室温で水素と反応させて有用な化学物質を作り出すことに成功している。では、この「クラスター」とは一体どんなものなのだろうか。

「化学において、構造とは物事を考える基礎となる最も重要なポイントなのですが、担持クラスターは最安定構造を持たないため、実験的に構造を決めることができません。また、“単離”という化学の基本的な方法論が適用できなかったことから、長らく正体不明の物質群とされていました。この様な状況下において、私が研究を進めていく中で原子分解能の電子顕微鏡を扱う機会があり、そこで見えたのが原子のうごめく姿です。金属って、固体なので液体のように流動性はないものだと思っていました。でも、ナノサイズでもなく、ミクロサイズでもないサブナノサイズの粒子クラスターの状態だと、室温の熱エネルギー程度で“動いている”んですよね。びっくりしました。想像の中にしか無かった物のその構造を初めて“見た”時に、自分のやるべきことはこれだと直感しました。」

「金属クラスターは、金属ナノ粒子を原子レベルまで微小化したものであり、ナノ粒子の延長線にはない新奇物性を発現することから、大いに注目されています。2000年代までには、多数のクラスターが合成されました。ただし、これらは配位子保護により単離可能な例外的安定性を有する一部のクラスターであり、これらから外れる担持クラスターは、依然として正体不明の物質でした。私は、こうした未開拓領域に達するための新しい構造解析手法として、化学構造を解明する方法としてはまだほとんど利用されていなかった電子顕微鏡に着目し、新たな動的構造解析手法の開発に取り組み始めました。」 「サブナノ粒子が生み出す卓越した触媒性能の起源となる構造を探ることで材料探索の指針を得ることができれば、さらに第二元素や第三元素を含む合金サブナノ粒子にまで展開してより優れた触媒の創製ができるのではないか、そう考えてこの未知の領域に挑み始めました。」

CHAPTER 3

異分野交流は研究を大きく発展させる。
普段の学会などでは出会えない機会を活かす。

 

今岡准教授は、自身の研究分野は少し特殊なこともあり、これまでのアライアンス活動の中では比較的単発の共同研究を実施できただけだった、と言う。近い分野の研究者との共同研究は比較的やりやすいが、やはり大きな研究の転換や発展が見込めるのは異分野の研究者との共同研究だと感じている。
「そういった中、第3期から新たにスタートしたアライアンス活動での分科会に参加したことは、非常に有意義でした。この数年はコロナ禍でなかなか対面の交流ができない期間があり、改めて交流の大切さを意識させれられる機会でした。さらに、異分野の研究者と交流できたことは大きな刺激になりました。特に化学と情報という分野はこれから連携が進んでいくべき領域だと思います。普段、学会等では出会えない異分野の研究者との交流やディスカッションすることができ、研究の新たな取り組みとなりそうなヒントを得ることもできました。今後もこのような機会を大切にしていきたいと思います。」

今岡准教授にとって、これからはどのような異分野交流、融合研究に期待し、取り組んでみたいのだろうか。 「人工知能やデータサイエンスにも興味があります。最近、AIという言葉を聞かない日がないくらいで、改めてAIという大きな波が押し寄せているのを実感します。化学分野のDXは遅れ気味ですが、異分野の方々との交流を通してこの波に乗り遅れないようにしたいです。それでも、研究にも流行り廃りがあったり、社会の要請といったものも時代とともに変化してきますが、内発的な好奇心は見失わないでいきたいです。」

CHAPTER 4

電子顕微鏡が拓く未踏領域に、新たなる可能性を見出す。

 

今岡准教授が現在取り組んでいるのは、電子顕微鏡を用いた高分解能な構造解析により、担持金属クラスターの動的な現象を捉えながら、その物理化学的特性を詳細に解明することだ。この取り組みは未踏領域のフロンティアであり、新奇な物質の機能を見出して活用することで、これまでの大量エネルギー消費・物質生産の世界から持続可能な社会へと転換する一助になりたいと言う。
「現在、担持金属クラスターの研究分野は、機能材料としての応用可能性に対する期待が高まっており、その物性や性能評価の研究が進んでいます。しかし、実はその構造はまだほとんど理解が進んでおらず、これまでは経験則をもとにカットアンドトライで機能探索を行っているにすぎません。私はこの担持金属クラスターの研究を深めるために、電子顕微鏡を用いた担持金属クラスターの新たな構造解析手法が確立できれば、クラスターの原子配列構造を直接動画で捉え、機能物質探索のスキームを構築できると考えています。そうすれば、膨大な多元素原子クラスターの中にまだ見つかっていないとてつもない機能を見つけることができるかもしれませんし、その応用研究分野を広げていくことが研究における使命だと感じています。私の研究の強みを活かして、今後、この研究を基盤として担持金属クラスターの研究分野において、新しい発見や応用研究の展開に挑み続けたいと思っています。」

「20世紀の化学は私たちの生活を便利にした一方で、環境に多くの負荷をかけてしまったというのが負の側面です。私たちの生活は様々な物に囲まれており、すべての物は物質でできています。こうした物質の多くは原油や鉱物などを原料として、多大なエネルギーを使って生産されています。21世紀の化学の目標はこうしたエネルギー収支をゼロに近づけ、社会を持続可能にしていくことだと思います。担持金属クラスターの研究がその一端を少しでも担えたらと思っています。

OFFTIME TALK

  • ウィークエンドの過ごし方

    週末はドライブや写真撮影

    家族との時間も大切に

    私のもともとの趣味はドライブと写真撮影ですが、子供が生まれてからは家族と過ごす時間を大切にしたいと考えているので、家族とドライブしたりする中で、写真の被写体はもっぱら子供になりました。もちろん自然の美しい風景を撮影することも忘れていません。カメラやガジェットにもこだわりをもって、色々とグッズを増やしてきています。何かYouTuberっぽくなってきましたけどね。そういえば、研究でも電子顕微鏡にのめり込んだりと、写真撮影の趣味が研究にもつながっているのかもしれません。家族が担持金属クラスターのように、色々と動き回りながら新しい喜びや価値をどんどん生み出しているようにも思えます。

  • ティーブレイク

    B級グルメ食べ歩きが大好き

    ご当地ものは外せない。

    学会で他の地域に行くときは、大抵ご当地ものは食べて帰りますね。特にラーメンやエスニック系の辛いものが好きです。でも、最近健康診断で中性脂肪が増えてきていると診断されてしまいました。また、子供と遊んでいるときに四十肩で体を痛めてしまいました。このままではいけないな、と思いましたね。それからは食べ歩きを少し控えて、適度な運動を心掛けるようになりましたけれど。

  • 猫との暮らしを夢見て

    ペットも家族の一員

    毎日癒されています。

    現在猫を2匹飼っています。エキゾチックショートヘア、という種類です。とても癒し系です。これまで、子供のころから数えて7匹、飼っていました。その中には保護猫もいました。幾度となくペットロスも経験しましたが、家族同様、大切に育てながらも私たち家族全員、癒されています。

今岡 享稔IMAOKA, Takane

東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所
分子機能化学領域 准教授

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