石炭の反応系からバイオマスの研究に、熱分解の研究を極める。
地球温暖化を抑制するためのエネルギー問題は今や世界の共通の課題である。「気温上昇を産業革命前に比べ2℃より十分低く、1.5℃に抑えることをめざす」とするパリ協定の目標を実現することは、科学技術、特に世界中の研究者に課せられた課題とも言える。この課題に化学工学の知見からバイオマスによる解決を目指すの若手研究者の一人が、九州大学先導物質化学研究所・先端素子部門・ミクロプロセス制御分野の工藤真二准教授である。
工藤准教授は京都大学工学部工業化学科にてポリマー微粒子の合成に関する研究に取り組んだのち、同大学大学院工学研究科化学工学専攻で前一廣教授の元、博士課程まで進学し、博士(工学)を取得した。大学院ではマイクロリアクターを用いた気体-固体触媒反応、水蒸気改質反応用固体触媒の研究に取り組んだ
「博士課程まで進もうと思ったきっかけは、大学院生時代です。当時、触媒に関して様々な論文を読みながら独学で研究していたんですね。その時、金の触媒で一酸化炭素の酸化反応が室温で進むことを見つけたんです。これはかつて春田正毅先生が見つけたノーベル賞級の発見なのですが、そのような前知識も全くなく自分で見つけることができたんですね。もう少し早く生まれていたら私が大きな賞を受賞したかもしれない(笑)。そういった経験や恩師の先生方の豊かな発想力に感激したことが研究に対する面白さに魅かれたきっかけです。」
「研究としては、一貫して、化学工学分野における反応設計の研究が中心で、特に学生時代にはマイクロリアクターという、微小な空間を反応場として用いる反応装置の研究に取り組んできました。その過程で触媒の研究にも取り組んできましたが、常に装置設計開発が研究の根幹となり、現在にまで至っています。」
工藤准教授は2010年に博士の学位を取得後、同年に九州大学炭素資源国際教育研究センター・林研究室に助教として着任した。その後、現在の九州大学先導物質化学研究所の助教として研究を継続したのち、2018年に准教授に昇進した。
「私を受け入れてくださった林潤一郎教授からは、「好きなことをやっていいよ」と私の自主性を非常に重視してくださいました。当時の林研究室では、主に石炭の研究を推進していたので、私も熱化学・反応工学的なアプローチで取り組める炭素科学、特にバイオマス原料を基にした研究に取り組んでみようと考えました。ちょうどその後からSDGs等が大きな話題となり、タイムリーなテーマを偶然にでも選べてよかったなと思っています。」