インタビュー

#07 山崎聖司准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

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細菌も人類と同じ生命、
共存共生社会の実現を目指して。

#07山崎 聖司

YAMASAKI, Seiji
大阪大学高等共創研究院
兼 産業科学研究所
CHAPTER 1

人の命を守る仕事とは?

人の命を守る仕事、人のためになる仕事がしたい。そのような思いから医歯薬学の道に進む研究者は多い。特に医学は直接患者の命を守る最前線の仕事である。一方で、とある大学医学部の先生からいただいたお言葉、
「医師は目の前の患者を救えるが、生涯で100万人が限度。命を救ったといえるレベルではない大多数の軽症患者を含んでの人数である。しかし新薬や新技術は自分の死後も含めると可能性は無限大だ。」
という言葉が心に響いた。
そうだ!薬学の研究で人類に貢献できる仕事をしよう!
そう思って研究に取り組んでいる新進気鋭の若手研究者の一人が、大阪大学高等共創研究院・産業科学研究所の山崎聖司准教授だ。彼は「細菌」という人類にとっては薬にも毒にもなるきわめて原始的な生命体に着目して研究を続けている。

山崎准教授は大阪大学薬学部から平成22年に大学院薬学研究科修士課程、続けて博士課程に進学し、平成27年に博士(薬科学)を取得した。博士後期課程の間、日本学術振興会特別研究員DCとしても3年間研究に従事した。実際の研究活動は、学部生時から大阪大学産業科学研究所にて、薬学研究科の協力分野への配属という形で進めてきた。
「子どもの頃によく抗生物質(微生物が産生する物質の総称を示す広義の意味ではなく、一般的にイメージされる抗菌作用のある薬という意味で“抗生物質”という言葉を用いている)のお世話になっていたことに加え、抗生物質の開発は利益率の低下により、もはや民間では行えず、大学で進めなければならない緊急事態となっていることを知り、薬学部・薬学研究科の協力分野である産業科学研究所の山口明人教授(現:西野邦彦教授)の研究室の門を叩いたのが、今の研究のスタートです。」
山崎准教授は博士課程修了後、引き続き同分野の研究を継続すべく、大阪大学産業科学研究所の西野研究室の助教として着任し、平成31年より大阪大学高等共創研究院の准教授として、また同大学の産業科学研究所、大学院薬学研究科ならびに令和5年度より感染症総合教育研究拠点を兼任する形で、現在も忙しい毎日を送っている。 「現在は、ヒトに害を為す細菌・有用な細菌を含めた、全ての細菌とうまく”お互い攻撃し合うことなく共に生存していく(共存)”・“共に助け合って生きていく(共生)”ための新たな学問が必要と考え、
(1)病原細菌の病原性・定着性を抑えて耐性菌出現を抑制しヒトとの新たな共存関係を構築する
(2)腸内細菌の活動を制御することでヒトとのより良い共生関係を構築する
という2つの目的を設定した研究室である“細菌共存学研究分野”を立ち上げました。SDGs 目標3である、“すべての人に健康と福祉を“の達成を目指しています。」

CHAPTER 2

ヒトと病原細菌との新たな、より良い共存関係を構築したい。

 

山崎准教授はいま、「細菌」と向き合っている。これまで人類と病原細菌は、新たな抗生物質を開発すれば新たな耐性菌が出現するという、‘いたちごっこ’の戦いを長く続けてきたが、この戦いは人類にとって分が悪いものになりつつある。実際に、新規抗生物質の開発・承認数は年々減少し、治療不可能な耐性菌も出現するなど、このまま従来の体制で抗生物質の開発を続ける戦略が悪手であることを歴史が証明している。では、この難題にどう立ち向かえば良いのか、山崎准教授に聞いた。
「細菌も生命体なので、生き残るために常に変化し続けます。生存戦略です。現在の社会情勢を見ても、どちらかを消滅させる戦いには終わりはありません。共に存在し、共に生きてゆく道を探るべきです。とは言っても、病原細菌は人に害をもたらすものですから、何とかしなければならない。そこで、最終的には、細菌自体を薬剤で死滅させるのではなく、細菌が薬剤耐性・病原性・定着性を発揮するための異物を排出するポンプの働きをする蛋白質の機能を弱め、細菌が悪さをしない状態に制御できるようにすればよいのではないかと考えました。」
「私の研究の目標は、複数の抗生物質への耐性化(多剤耐性化と言います)の主原因となっている、細菌の蛋白質である異物排出ポンプの阻害剤を実用化し、抗生物質と併用することで、まずは喫緊の課題である耐性菌感染症を克服することです。これが第1段階となる、人類の被害を抑えるための殺菌を伴う最低限の共存関係の構築です。そして最終的には、これまでに自身が明らかにしてきた細菌の病原性発現・宿主定着性にも寄与している異物排出ポンプの阻害剤を実用化し、細菌を病原性・定着性を発揮させない状態にコントロールして、免疫や細菌自身による糞便中への移動・排菌を促す、抗生物質を全く用いない治療法を開発したいと思っています。開発に成功すれば、人類と細菌の双方が苦しみのない、結果的に新たな耐性菌も生まれにくい、全く新たな共存関係が構築できると考えています。」

もう一つ、人類にとって有益な細菌を活かすことも考える必要がある。「腸内細菌」という言葉は最近いろいろな機会で耳にしていると思う。健康志向、腸活、メタボ解消等、人生100年時代における健康長寿社会の実現に向けた重要な要素であり、ここにもまさに「細菌」が重要な位置を占めていると山崎准教授は言う。
「すでにヒトと共生関係にある腸内細菌ですが、近年の研究により、従来考えられていた以上にヒトの健康に関わっていることが明らかになり、その関係性が見直されつつあります。それに伴い、乳酸菌・ビフィズス菌等の摂取や便移植等、有用な細菌を新たにヒト体内に取り入れようとする手法が注目されています。しかし、すでに完成している腸内フローラの中に別の細菌が入り込むのは難しく、なかなか腸内に定着しないという大きな問題があります。」
「そこで、すでに個々人の体内に存在している腸内細菌のうち、整腸作用等に寄与することが昔から知られている乳酸菌やビフィズス菌等に加え、短鎖脂肪酸を放出してヒト細胞の脂肪の取り込みを抑制するバクテロイデス(中間菌・日和見菌に分類されます)等にも着目し、新規化合物あるいは新規機能を見いだした既存化合物を用いて、これらの細菌の有用成分の生産・放出を活性化する手法を確立したいと考えています。新規手法が確立できれば、腸内フローラの恩恵を最大限ヒトが享受できる、より良い共生関係の構築を実現することができます。」

CHAPTER 3

新たな人脈を広げて目標を達成したい。
アライアンス活動に積極的に参加したい。

 

山崎准教授は、平成27年から令和4年まで、JST(科学技術振興機構)のセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムにおいて、「腸内フローラ改善による人間力活性化メカニズムの解明」という研究課題を推進してきた。本研究では産官学連携含め、多様な人材と共同研究を進め、人材交流の幅を広げてきた。
「私自身、学部在学中に父の会社の様々な取引先の関係者と交流を行っていた経験から、幸運なことに、幅広い分野・業界における人材交流の重要性を早いうちに感じていました。それが、腸内フローラに関するアドバイザーとして大阪大学周辺地域の活性化や産業の発展に関与したり、COIプログラムへの企業の参画に成功したりということにつながっています。」
「また、クロスオーバーアライアンス活動としては、平成29年にこれまでとは違ったグループであるG1(エレクトロニクス 物質・デバイス)の分科会に参加させていただきました。そこで先導物質化学研究所の柳田剛教授の研究を聞いたことをきっかけに、細菌が発する特有のガス成分を検出することでその細菌の種類や機能を特定する、という異分野融合研究がスタートし、3年間のCOREラボ共同研究およびそこからさらに派生したテーマで令和4年度から2年間のCORE²-Aラボ共同研究を実施することができました。このような新しい研究テーマに巡り合えたのも、常に人脈を広げていきたいという思いと、そのような場を積極的に設定してくれるクロスオーバーアライアンス活動がうまくかみ合ったおかげかな、と思っています。」

CHAPTER 4

研究成果の社会実装と後進の指導による研究分野の発展を目指して。

 

医歯薬学の研究分野は、人類に直接貢献ができる領域であるからこそ、研究成果が社会実装にまでつながることが重要である。特にこれらの分野に進む研究者は、その思いが強いのではないだろうか。山崎准教授も正にその中の一人である。
「現在は特に、これまでの排出ポンプに関する基礎研究の成果を基に新たに見いだすことができた、新規耐性菌治療薬である細菌排出ポンプ阻害剤の実用化を企業とともに進めています。新たな耐性菌の出現や腸内フローラの乱れを抑える性質を有しているこの阻害剤は、臨床研究に向けた研究開発を行う段階にきており、早期実用化に向けて引き続き改良を進め、耐性菌パンデミックの回避に大きく貢献していきたいと考えています。」

一方で、研究は先人からの積み上げで進化を遂げ、様々な社会課題を一つずつ解決してきているが、一人、一世代の研究者だけではそれを成し遂げることはできない、と山崎准教授は考えている。
「研究者として、未知の現象を解明し、研究の成果を社会に還元することは非常に重要ですが、人類のテクノロジーの進歩という科学研究の大きな目標を前にすると、一研究者が遂行できる仕事量というのは、時間的にやはり限界があることに気づかされます。そのため、研究者にとって真理を追究することで社会に貢献するという自覚とともに重要なのは、できる限り多くの優秀な後進を育てるという強い意志であると考えています。これは、教育者として学生を教育するリーダーシップやコミュニケーション能力が必要であるという意味にはとどまらず、さらに重要なことは、広く後進の研究者の意欲と創造力を引き出す存在として、自ら研究分野の第一人者となることであると捉えています。自分自身も、これまで積み上げられてきた多くの研究者の成果と志によって育てられているということを自覚し、後進の研究者の目標となる存在にならなければならないと考えています。」

OFFTIME TALK

  • ウィークエンドの過ごし方

    地元の商店街にて

    家族とのだんらんのひと時

    休日は家族一緒に出掛けるようにしています。大きなショッピングモールはもちろん子どもは好きですが、子どもにとって逆に新鮮なのか、昔ながらの商店街も好きでよく散策しに行きます。大阪では日本一長い「天神橋筋商店街」が有名ですが、小さな町にあるこじんまりした古き良き商店街も気に入っています。さりげなく声をかけてくれる人たち、ふらりと入ったお店でのたわいない会話、のんびりした雰囲気がいいですね。
    グルメについても、インターネットやテレビで有名なお店のほか、地元民御用達のお店にふらりと入って、食事を楽しむのも好きです。最近では、テレビ番組「オモウマい店」を家族でよく見て、珍しいお店を探しています。
    また2人の子どもが、サッカーチーム・チアダンスチームに入っているので、よく一緒にサッカーをしたり、応援に行ったりしています。私自身も学生時代、サッカー部に所属していたのですが、如何せん今は体力がなくなってきていて、子どもたちについていくのがやっとです。

  • ティーブレイク

    ソフトもハードも気になる

    昭和レトロが大好き

    昔ながらの商店街もそうですが、昭和レトロの雰囲気が好きです。ゲームは最新のものも子どもと一緒によく遊びますが、個人的にはレトロゲームが好きですね。ファミコン・初代ゲームボーイ時代のゲームソフトとか。特に、ソフトだけでなくハードなんかも少し気になり、修理のために分解してみると、当時の設計の苦労が垣間見えてきて、妙に感心したりしています。研究者として共感できるのですかねぇ。

  • 猫との暮らしを夢見て

    宇宙への興味は尽きない

    宇宙にも興味がたくさん

    スターウォーズなどの映画に触発されて、昔から宇宙にも興味があります。子どもたちと一緒にプラモデルを作ったり、夜に望遠鏡で星を眺めたりしています。人類の安全な宇宙開発に向け、いずれは宇宙空間での「細菌」の薬剤耐性・病原性・定着性の変化に関する研究も進めていきたいですね。このような新たな研究のアイデアは、リラックスした状態で思いつくことが多いと言われていますが、自分の場合、眠る前に真っ暗な部屋で目を閉じた状態で物事を考えると、実現可能性にとらわれないアイデアが色々と浮かぶことに気がついたので、寝不足にならない程度に実践しています。

山崎 聖司YAMASAKI, Seiji

大阪大学 高等共創研究院
兼 産業科学研究所 准教授

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