
ナノチューブの可能性を拓く - 研究者としての道のり
ナノ材料の可能性を追求し続ける蓬田准教授。彼の研究は、カーボンナノチューブや無機ナノチューブといったナノスケールのチューブ構造に焦点を当て、それらの合成や構造制御、それらの特徴を活かした応用に向けたものだ。特に、SDGsへの貢献となる、低消費電力の半導体デバイス、太陽電池等などの光電変換デバイス、水素発生・燃料電池の電極材料など、エネルギー分野での活用が期待されている。
福島に生まれ、大学で情報工学を学んだ蓬田准教授は、大学院進学の際に専門を物理学に変更した。東北大学金属材料研究所の岩佐義宏教授・竹延大志准教授に師事し、有機材料を用いた発光デバイスやカーボンナノチューブ・無機材料を用いた電気化学デバイスなどのデバイス物理の研究に取り組んだ。博士号取得後、研究の方向性を見直し、デバイスからではなく材料そのものにアプローチしたいと考えるようになった。
そこで、カーボンナノチューブ(CNT)研究の第一人者であるAIST(産業技術総合研究所)の片浦弘道先生のもとで博士研究員(PD)として研究する道を選ぶ。物理学から材料科学という異分野へ飛び込む決断をしたことで、新たな視点を得ることができた。
「物理では実験の前後でその背景の理論をじっくりと考えることが多いですが、材料科学ではとりあえず手を動かし実験をして試行錯誤を重ねながら進めることが多いです。PDCAサイクルを回しながら仮説を実証する材料科学の研究スタイルは、自分によく合っていて、異分野に飛び込む勇気が無ければ気づけなかったと思います。」
AISTでの2年間(2013年9月~2016年3月)にわたる研究期間中、CNTの分離技術と光応用に関する先駆的な研究を行い、その成果をNature Communicationsをはじめとするトップジャーナルに発表。論文は世界中で引用されており、その多くがTop 10 %論文になっている。 「CNTは巻き方(構造)が変わると性質も変わってきます。合成直後のCNTは、様々な構造のCNTが混ざった状態になっていて、応用に適しません。そこで私は、CNTの混合物から単一の構造のCNTを分離する技術の開発を行いました。これまで難しかった単一構造CNTが市販の装置で簡単に分離できるようになり、それを使った画期的な研究が可能になりました。」
その後、東京都立大学の柳和宏教授の研究室で助教として7年間勤めることとなる。CNT研究を続ける一方で、研究の独自性を高めるため、新たな材料に取り組むことを勧められた。そのタイミングで出会ったのが無機ナノチューブである。試料の入手が困難だった無機ナノチューブの状況を考え、これまで全く手をつけてこなかった無機合成に手を出し、無機ナノチューブを自ら合成する方向に舵を切った。温度や反応を精密に制御できる合成技術を開発し、チューブの特徴が顕著となる小さな直径を有する無機ナノチューブの合成に日本で初めて成功し、その歪みを利用した機能開拓につなげた。Nano Lettersをはじめとする多くのジャーナルに発表。これが現在の研究の大きな礎となった。
現在は北海道大学電子科学研究所にて、これまで難しかった長尺の単一構造CNTの分離や、小直径無機ナノチューブの大面積合成に挑戦。得られたナノチューブのデバイス応用、機能開拓を進めている。
「指導学生の所属は理学部化学科であり、今回も分野変更になります。化学では、これまで技術として用いてきた分離や合成に関して、そのメカニズムを深く理解し、さらに発展させることが求められます。この機会に、これまで培ってきた技術を発展させるとともに、水素発生の電極など、これまで手を出してこなかった化学的な機能開拓にも挑戦していきたいと考えています。」