インタビュー

#10 アルブレヒト建准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

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デンドリマーに魅せられて
発光技術の未来を切り開く挑戦

#10アルブレヒト 建

ALBRECHT, Ken
九州大学 先導物質化学研究所
CHAPTER 1

光への目覚め - 有機化学との出会い

ドイツで生まれ、幼少期をアメリカで過ごした後、日本へと移り住んだアルブレヒト建准教授。日本で育ち、日本で学び研究にまい進する中でも、異なる文化を経験する中で培われた好奇心と広い視野は、彼の学問的探求を支える原動力となっている。 

慶應義塾大学で化学を学び始めると、有機化学の奥深さとその設計の自由さに心惹かれるようになった。その中でも特に彼を魅了したのは、分子を自在に組み立て、新たな機能を持たせる可能性を秘めた高分子材料。博士課程では山元公寿教授のもとでデンドリマー*1研究に没頭し、2010年に同大学大学院 理工学研究科にて博士の学位を取得した。その後2010年から東京工業大学(現東京科学大学)大学資源化学研究所にて助教、2019年から九州大学先導物質科学研究所にて准教授として研究を継続してきているが、この「デンドリマー」という高分子の魅力に取りつかれている。

「デンドリマーの構造が規則的に枝分かれすることで、独特の機能性を発揮できるところに可能性を感じました。」
こう語る彼の研究は、デンドリマーを用いた有機発光ダイオード(OLED)の開発や、新たに注目されるLight-Emitting Electrochemical Cell(LEC)といった応用分野へと広がっていく。LECの単層構造がもたらす製造プロセスの簡略化やコスト削減といった利点は、日常生活における新たな発光技術の可能性を大きく広げる。
 さらに、アルブレヒト准教授は、グローバルな視点で国際的な共同研究にも力を注いでいる。ドイツの研究者と共に光るタンパク質を活用したサステナブルな発光材料の開発に取り組む一方、イギリスの研究者とは分光的アプローチで発光メカニズムの解明を進めている。
 基礎科学から応用科学へ―。広がる研究の世界を、情熱とともに切り拓き続けている。

*1: 中心から規則的に分枝した構造を持つ樹状高分子。ギリシャ語で「木」を意味する デンドロン (δένδρον, dendron) から命名された。

CHAPTER 2

社会実装への道 - デンドリマーの可能性を広げて

 

デンドリマーが持つ特性は、化学的な美しさにとどまらない。その分子構造が生み出す高い機能性は、社会実装への大きな可能性を秘めている。しかし、その一方で、複雑な合成プロセスが普及への障壁となっている。例えば、高い精度が求められる合成工程や多段階の反応が必要なため、大量生産が難しいことが課題となっている。このような制約が、コストや製造スケールの面で大きなハードルとなっていた。
 この課題への挑戦は、多くの研究者によって進められてきた。ブレイクスルーとなったのがハイパーブランチポリマー*2という材料。ハイパーブランチポリマーは、よりデンドリマーより簡便な合成方法で作製することができ、かつデンドリマーの特性を維持することが可能となる。この成果は、塗料やコーティング材料としての実用化を後押しし、デンドリマーの応用範囲を大きく広げている。

また、世界ではデンドリマーに特化したベンチャー企業が次々と誕生し、ドラッグデリバリーシステム(DDS)といった医療分野での応用も進んでいる。これらの動きは、デンドリマーが社会実装を目指す中での大きな一歩といえる。
「私たちの研究の強みは、オリジナルの材料を保有していることです。しかし、その一方で、特定の材料に縛られることはリスクでもあります。だからこそ、新しい応用の種と新材料を常に探し続け、広いネットワークを築くことが重要なのです。」
と、アルブレヒト准教授は語る。この信念のもと、最近はニーズ起点のアプローチにも意識を向け始めた。
「これまでの“ダメ元”の挑戦から一歩進み、社会の具体的な課題解決を見据えた研究へとシフトしていきたい。」
デンドリマーがもたらす未来。それは、環境に優しい社会の実現に向けた、明るい光となるに違いない。

*2: ハイパーブランチポリマー:分子内に多数の分岐点を有する樹枝状高分子。デンドリマーより簡便に(1段階で)合成できることから工業的には有利。

CHAPTER 3

アライアンスの力
研究者ネットワークが生むイノベーション

 

アルブレヒト准教授の研究人生において、ネットワークは欠かせない要素となっている。博士課程在籍中、指導教官である山元公寿教授が東京工業大学資源科学研究所(現 東京科学大学 化学生命科学研究所)に異動した際、師とともに新たな環境で研究を続けることとなった。ここでの経験が、彼にとって初めてのアライアンス活動との出会いとなる。
 「当時、若手研究者が外部との連携に関わる機会は少なく、アライアンス活動は私にとって非常に貴重な体験でした。アライアンスの場では、研究所内外、学外の研究者と深い関係を築くことがでました。東京工業大学(当時)でアライアンス若手会に参加したり、運営にも携わったりする中で、若手研究者主体の『アライアンス若手会』からの提言として若手同士の共同研究経費の創設にもつながりました。この取り組みは、若手研究者にとっての新しい挑戦と学びの場となり、現在の若手も活発に参加できるアライアンス分科会活動へのきっかけになったのではないかと思っています。」

アライアンス活動を通じてアルブレヒト准教授はアライアンスの成果報告会で行ったポスター発表がきっかけで、藤田克彦教授(九州大学先導物質化学研究所)、松岡健一助教(当時) との共同研究が実現した。
「この成果は、普段接点がなかった藤田教授と出会えてコラボレーションにつながったことに加え、アライアンスという環境が持つ交流の場が決定的な役割を果たしました。特に、成果報告会での議論を通じて、研究テーマが具体化し、共同研究がスムーズに進んだのです。」

アライアンスの意義を体感したアルブレヒト准教授は、研究者同士の交流が持つ力を強く実感している。
 「海外での学会やアライアンスの場では、ラボ訪問や講演、さらに食事やお酒の場を共にすることで深い信頼関係が築かれます。それが新しい研究テーマの発見につながるのです。」
 ネットワークの力を活かし、アルブレヒト准教授はこれからも挑戦を続けていく。
「新たな可能性を切り開くための道筋は、研究者同士の結びつきの中にある。」

CHAPTER 4

次世代を育む - 科学教育への情熱

 

アルブレヒト准教授にとって、科学の未来を形作る鍵は若い世代の育成にあり、若手研究者の指導にも熱心に力をそそいでいる。彼の夢は、科学の楽しさを次世代に伝えることであり、その思いは教育活動にも反映されている。
アルブレヒト准教授はこれまで、科学イベントやワークショップを通じて子どもたちに直接触れる機会を大切にしてきた。現在、クラウドファンディングを活用したプロジェクトを立ち上げ、光化学の中高生への普及に努めている。
「子どもたちの目が輝く瞬間を見ると、科学の大きな力を感じます。その感動と喜びを共有できることが何よりの喜びです。」

さらに、アルブレヒト准教授は中高生を対象としたプログラムを通じて、文理選択や進路に関する具体的なアドバイスを提供している。これらの取り組みは、若者が自分自身の可能性に気づき、未来への道筋を描く手助けとなることを目指している。
 「次世代の研究者を育てること。それは私にとって、科学者としての使命の一部です。」
 教育と研究、これら二つの分野を融合させながら、アルブレヒト准教授は科学の未来を見据えている。この取り組みは、次世代に科学の火を灯し、新たな可能性の扉を開く光となるに違いない。

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    趣味で心身ともにリフレッシュしながらも、「最近、少し働きすぎているかもしれない」なんて振り返りながら、夜遅くならないよう気をつけて早めに帰宅することを心掛けています。

アルブレヒト 建ALBRECHT, Ken

九州大学 先導物質化学研究所 准教授

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