基礎から応用まで意識した学生時代
材料分野の領域で、今や欠かすことのできない技術の一つである第一原理計算。単に材料を調べるだけでなく、触媒、蓄電池、燃料電池などの背後に共通する電気化学、表面・界面科学など新学理・新概念を開拓し、理論・計算・データ科学研究分野で注目を浴びているのが、東京科学大学総合研究院化学生命科学研究所の安藤康伸准教授だ。
大学院では当初は半導体表面、特に炭化ケイ素(SiC)に関する表面科学のテーマに取り組んでいた。その後、固液界面で生じる電気二重層について興味を持つようになり、これを第一原理計算に基づく分子動力学計算で解析できないか、そんな興味からこれを博士論文のテーマとして選んだ。第一原理計算は量子力学などの最も基本的な物理法則に基づき、基礎的な物理定数以外のパラメータを一切使わず、物質の構造や電子状態を計算する手法であり、その基盤となる密度汎関数理論は、1998年のジョン・ポープル博士とウォルター・コーン博士のノーベル化学賞受賞につながった。
「このときの経験が今に活きています。第一原理計算は基礎的な学問だと思われるかもしれませんが、電気二重層はキャパシタなどにも使われる技術なので、基礎だけでなく応用にも目を向けることができるようになりました。」と自信満々に答える安藤准教授の眼は鋭さを増した。

