インタビュー

#12 安藤康伸准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

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No learning, No interesting!
第一原理計算×応用で新しい表面・界面科学を拓く

#12安藤 康伸

ANDO, Yasunobu
東京科学大学総合研究院
化学生命科学研究所
CHAPTER 1

基礎から応用まで意識した学生時代

材料分野の領域で、今や欠かすことのできない技術の一つである第一原理計算。単に材料を調べるだけでなく、触媒、蓄電池、燃料電池などの背後に共通する電気化学、表面・界面科学など新学理・新概念を開拓し、理論・計算・データ科学研究分野で注目を浴びているのが、東京科学大学総合研究院化学生命科学研究所の安藤康伸准教授だ。

大学院では当初は半導体表面、特に炭化ケイ素(SiC)に関する表面科学のテーマに取り組んでいた。その後、固液界面で生じる電気二重層について興味を持つようになり、これを第一原理計算に基づく分子動力学計算で解析できないか、そんな興味からこれを博士論文のテーマとして選んだ。第一原理計算は量子力学などの最も基本的な物理法則に基づき、基礎的な物理定数以外のパラメータを一切使わず、物質の構造や電子状態を計算する手法であり、その基盤となる密度汎関数理論は、1998年のジョン・ポープル博士とウォルター・コーン博士のノーベル化学賞受賞につながった。

「このときの経験が今に活きています。第一原理計算は基礎的な学問だと思われるかもしれませんが、電気二重層はキャパシタなどにも使われる技術なので、基礎だけでなく応用にも目を向けることができるようになりました。」と自信満々に答える安藤准教授の眼は鋭さを増した。

CHAPTER 2

MIの大激震の中で身に着けたスキル

 

安藤准教授が博士の学位を取得しようとしていた2011年、材料科学の世界に激震が襲った。当時のアメリカのオバマ政権がMaterials Genome Initiative(MGI)を国家プロジェクトとしてスタートしたのだ。2012年に産業総合研究所(産総研)にてポスドクとなり、本格的に研究者としての道を歩み始めた安藤准教授は、後にMaterials Informatics(MI)と称されるこの世界に身を投じ、日本や世界の科学界の大きな変化を肌で感じた、正にその一人なのである。

翌年、東京大学工学部マテリアル工学科の助教となり、2016年には再び産総研に戻り、機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センターの研究員として、第一原理計算による材料計算スキルと情報科学の応用スキルを着々と身につけ、研究を重ねることとなる。

「研究テーマは、基礎学理の探求・材料科学の進展・社会貢献の三つが大きな柱となり、現在に至っています。」安藤准教授の言葉に力が入り続けた。「守備範囲の広さが、私の強みです。」産総研にいたので、社会連携・システム化・技術普及という観点で物事を見ることができることは研究者として大きな強みだろう。 技術の普及でよく問題となるのが、値付けである。「無償ではなく有償の方が普及すると考えています。例えば、ウィーン大学で開発された第一原理計算の“VASP”というソフト。これはちゃんとお金を集めて・人を集めてコミュニティを立ち上げて普及することを意識しているので、広く使われています。」大学でも産総研でも研究してきた、安藤准教授だからこそ、言える一文である。

「単に好きなことをやるだけではなく、縁の下の力持ちとして日本発のグリーンテクノロジーの屋台骨の一つになれたら良いですね。」笑顔の安藤准教授だが、目力は一段と強まった。 「少なくとも大学の研究者であるので、そこは忘れてはいけないと思っています。研究室に缶詰めにならないといけないものや手間暇がかかっていたものを減らせれば、研究としても魅力的になるだろうし、もっと言えば、そうなることで自然と大学の研究職が魅力的に映り、大学教員になろうという人が一人でも増えてくれればよいなと。」後に続く研究者への期待も忘れていない。

CHAPTER 3

“こいつは良いな”の研究者

 

2024年4月、東京工業大学(当時)の化学生命科学研究科(化生研)に館山佳尚教授が着任することとなり、公募をきっかけに安藤准教授が誕生することとなった。
「基本的に自分のキャリアは人との交流でできています。」安藤教授は、そう断言した。33歳で大学から異動した産総研では、学生はおらず基本的に個人戦。一人で書ける論文数は限りがあり、周りに積極的に声をかけ、また声がかかった仕事は極力受け、論文につなげてきたそうだ。結果、それが様々な人材・人財との交流を増やし、研究の厚みにつながっていった。

クロスオーバーアライアンスに関しては、「今まで名前だけ聞いたことがありましたが、その道で有名な教授の先生とつながったり、自身の研究とは全くご縁の無かった先生とつながったりできて分科会にも、面白く参加させてもらっています。」そう言って笑った。
そんな安藤准教授の人柄故に、民間企業との共同研究も長く・深く続くものが多い。産総研時代には電気二重層の研究プレスリリースから、粘土鉱物の性状に関する企業共同研究に繋がり、企業の技術力強化に貢献しただけでなく、最終的には論文化することができ、正にwin-winの成果を得たこともあった。 「今後は研究リーダーとして、積極的に大型プロジェクトに提案していきたいです。そんなときに、気軽に周りに声をかけられる、声をかけてもらえる、“こいつは良いな”と思われる研究者になりたいです。」
笑顔の安藤准教授の顔は自信に満ち溢れていた。

CHAPTER 4

哲学や経済学との融合も!?

 

異分野融合を通じた、別の切り口からの研究の再発見にもチャレンジしたいそうである。「AI時代になり、科学の在り方が問われる時代と言えるのではないでしょうか。情報と哲学、この関係を無視できません。将来的には大型プロジェクトに人文社会系の方を入れたいです。」常に多方面からの視点を忘れない姿勢が伺える。AIと哲学の勉強会を隔月で開催しているそうである。
「経済学も、中で使っているツールは情報学と変わりません。材料科学とも融合できるのでは?」
安藤准教授は、さらにこう続けた。
「No learning, No interesting(学ばないと面白くない)。旅行に行っても事前に歴史的背景を知っていれば、面白さがかなり違います。人生楽しみたいなら勉強しようよ、知れば知るほど面白くなるのだから、と出前授業で高校生に伝えています。」

大学・産総研と言った公的機関・民間企業との共同研究、様々な立場で研究を重ねてきた安藤准教授にとって、第一原理計算は単に手法の一つに過ぎない。疑問を解決するため・技術の進歩のためであれば、異分野の領域であっても他の研究手法も積極的に取り入れ、新しい研究にチャレンジし続けていくのだろう。

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    実は芸術系なんです

    舞台芸術系が大好きです。高校時代はコーラス部、大学時代はミュージカルサークルに所属し、アマチュアの劇団にも入っていました。
    12年前から、ラテンダンス(サルサ)も習い始めました。

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    食に対するこだわりは、かなり強いです。夫婦間では、衣食住の食は私自身が握っています。
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    頭を止めるには!?

    基本的に私の頭って、何かあったらすぐ調べる中毒なんです(笑) だから、どちらかというと頭を止める方法を常に考えています。
    最近、ハマっているのはランニング、出張先でも走ります! 他のことができなくなるので良いのです。パーソナルトレーニングも月に2回ほど通っています。この業界、最後は体力勝負ですから!

安藤 康伸ANDO, Yasunobu

東京科学大学総合研究院
化学生命科学研究所 准教授

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