インタビュー

#13 曽宮正晴准教授

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とにかく我武者羅に! タンパク質デザインに情熱を捧げる

#13曽宮 正晴

SOMIYA, Masaharu
大阪大学 産業科学研究所
CHAPTER 1

黒田俊一教授との出会い

 生物を構成する主要成分の一つであり、薬剤としても使われるタンパク質。これを自由自在にデザインし、多種多様な機能を持たせる、体内の目的の場所で目的の機能を発揮させる、そんな夢のような研究に取り組んでいるのが、大阪大学産業科学研究所の曽宮正晴准教授だ。

 曽宮准教授は北九州高専の物質化学工学科、そして同専攻科を卒業し、名古屋大学大学院農学研究科へと進学した。「高専時代から、ヒト細胞をつかったタンパク質生産の研究をしていました。これを利用して、体内で縦横無尽に働くナノマシンのようなDDS(ドラッグデリバリーシステム)を構築したいと思ったんです。」懐かしそうに曽宮准教授は振り返った。
修士課程・博士課程で指導教員となったのが、現在の研究室のボスである黒田俊一教授であり、このころから今でもDDSは研究の大きな柱の一つとなっている。

 博士の学位を取得後、細胞外小胞の研究で著名な、国立がん研究センターの落谷孝広博士(現・東京医科大学特任教授)の下にて研究者としての基礎を学んだ。
 2017年6月、大阪大学産業科学研究所(阪大産研)に移った黒田教授から曽宮准教授に『また一緒にやらないか』と声がかかる。曽宮准教授は「学振SPD(日本学術振興会 特別研究員-SPD)に採用が内定した直後だったので、とても悩みました。でも勝手知りたる黒田先生の下なら、のびのび研究できるかなと思って移る決断をしました。」そう言って笑った。
 再び黒田教授の下で研究をスタートした曽宮准教授、2022年から2年間、米国ワシントン大学のデイヴィッド・ベイカー教授(2024年ノーベル化学賞受賞)が所長を務める研究所で研究するという貴重な機会も得ることとなる。

CHAPTER 2

タンパク質を創り出す面白さ

 

 「タンパク質デザイン自体は、実はすでに30年以上の研究の歴史があるので、それ自体が新しい研究テーマではありません。」そう言って自身の研究について謙遜する曽宮准教授だが、「デザインしたタンパクをDDSに応用するという取り組みはほとんど実現されてこなかった。」語気を強める曽宮教授の目は自信で溢れていた。

 2021年、タンパク質デザインの世界で大きな革新が起こる。“AlphaFold2”という、タンパク質の立体構造を極めて高精度に予測できるソフトウェアが一般公開されたのである。
「今までは工具がないから良いものがつくれませんでした。AIが出てきて工具ができたから、その良い工具を使って何をつくるか、それを考えられる時代になりました。」タンパク質デザインの成果でノーベル賞を受賞したデイヴィッド・ベイカー氏の研究を間近で見た曽宮准教授だからこそ言える台詞だろう。

 今現在は、細胞膜や脂質二重膜などの膜同士を融合させるタンパク質のデザインに注力しているそうだ。
 「ウイルスが持っているようなタンパク質の機能をもつ人工のタンパク質をデザインして、DDSにつなげたいです。ウィルスって、悪さだけなくて、良いことだってできるんですよ。」
 そう言って目を輝かせた。人工のスパイクタンパク質を創り出し、それを搭載したDDSシステムを構築し、特異的・機能的に薬や遺伝子を作用させて新しい治療を実現する、そんな世界が曽宮准教授の頭の中にはイメージできているようだ。

 「ウィルスをなおすマシンのようなものが創れるのではないかと思います。20種類のアミノ酸から構成されるタンパク質を創り出す事そのものに興味があります。既存の無機・有機合成とは違った面白さがあるんです。」

CHAPTER 3

人とのご縁を大切に

 

阪大産研に着任以来、曽宮准教授は“クロスオーバーアライアンス”の活動を有効活用している研究者の一人である。

 「たまたま、隣にいたんですよね。」そう言って笑う相手は、北海道大学電子科学研究所の西上幸範である。福岡で開催された“アライアンス5研究所+台湾国際シンポジウム”の懇親会にて、正に隣にいた西上准教授はリポソームで作った人工細胞などの研究者であり、細胞膜を融合させるタンパク質の研究をしている曽宮准教授と、意気投合するのに時間はかからなかった。
その後、オンラインで何度か打ち合わせを重ね、現在はアライアンスの支援プログラムである“若手フィージビリティスタディ”に採択され、“膜融合によって駆動する人工細胞系の開発”の課題に取り組んでいる。

 人とのご縁を大切にする曽宮准教授は、学内外で様々な共同研究を展開している。過去から現在に至り、国内外の多くの研究者と共同論文を執筆し、時には外部資金を獲得するなどして、活動の幅を広げている。

 「タンパク質デザインを日本でも普及させたいです。若手の勉強会を企画しています。タンパク質デザインに興味のある方と一緒に盛り上げたいですし、生命工学系の先生方にこの手法を使ってほしいです。」
 研究成果のみならず、今後の人的ネットワークの拡大にも注目したい。

CHAPTER 4

社会還元できる基礎研究を続ける

 

将来どんな研究者になりたいか?そう曽宮准教授に尋ねたところ、「とにかく我武者羅に頑張る研究者」と即答した。「北九州高専時代の恩師、川原浩治先生(教授)から、“一生懸命は当たり前”の精神を叩き込まれました。そう言って笑った。

 基礎研究と応用研究、どちらに興味があるか?との質問には、“パスツールの4象限”という考え方を明示した。“根本原理の追求の有無”と“応用・用途の考慮の有無”という二つの軸で4象限に区切って研究を分類する手法である。
「重要な基礎研究をやっていれば、それは社会実装につながります。基礎研究の軸と応用の軸、どちらかというよりは両方いける研究者を目指しています。」力強く、言い切った。

 将来の夢は?の質問には、「スタートアップが面白いかな。でも今は研究に集中したいです。」との返答だった。さらに、「米国滞在中にお世話になった研究室のPIのニール・キングは、研究成果を基にしてスタートアップ企業を立ち上げ、2024年に大手製薬企業に11億ドルで買収されました。社会還元にもなり、自身へも返ってくる、これが理想的です。」と微笑んだ。

 曽宮准教授によりデザインされたタンパク質が新たな治療薬となり、DDSの世界を大きく変える、そんな未来は遠くないのかもしれない。

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    旅行も好きですよ。叔父がニュージーランドの南島に住んでいるのですが、息子と一緒に車で巡ったのは良い思い出です。

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    食に対する執着は、あまり強くありません。でも、カレーは大好きです。カレーハウスCoCo壱番屋、ココイチは、何度言っても美味いって思いますね。

曽宮 正晴SOMIYA, Masaharu

大阪大学 産業科学研究所 生体分子反応科学研究分野 准教授

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