インタビュー

#14 西上幸範准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

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問いを楽しみ、生命を見つめる
~ 原生生物の「動き」から探る生命の原理 ~

#14西上 幸範

NISHIGAMI, Yukinori
北海道大学電子科学研究所
CHAPTER 1

人に惹かれ、ご縁がつないだ研究の道

「生きているとは、そもそも何だろうか」。誰もが一度は抱く根源的な問いに対し、アメーバをはじめとする原生生物のミクロな「動き」を通して生命の隠された原理に迫ろうと、独自の探求を続けているのが北海道大学電子科学研究所の西上幸範准教授だ。

大阪府高石市で育った西上准教授は、学部から博士課程まで一貫して兵庫県立大学で学んだ。2008年に理学部へ入学し、生命科学を専攻。もともと「研究がしたい」という思いが強く、研究室選びの基準も「面白い研究ができるか」だったという。
いざ研究室に入ってみると「“人”に惹かれました。楽しそうに好きなことをやっている人が面白い研究をしていました。自分もそのような環境に身を置きたいと思ったんです。」

学部・大学院時代に取り組んだのは、アメーバ運動の研究だった。当時所属していた研究室は植物のラボだったが、准教授の先生がアメーバを飼育しており、そこから研究が始まった。生化学を軸とした研究を進める中で、次第にある疑問が芽生えていった。 「タンパク質をいくら詳しく調べても、私自身は“生き物を理解した”感じがしなかったんです。生きているって、そもそも何だろう。」
博士課程2年の頃、京都大学理学部物理学教室へ短期間の共同研究に出向いた。この経験が、その後の研究人生を大きく方向づける。物理の視点から生命現象を捉え直す試みの中で、西上准教授は「人工アメーバ」をつくる研究に取り組んだ。タンパク質をアメーバから取り出し、人工細胞に封じ込めると、ぷにぷにと“生き物らしく”動き始める。その様子に、強い感動を得たという。 「生き物を部品に分けて考えるだけではなく、どう組み合わさって“動き”が生まれるのかを見ることが大事だと実感しました」

大学院生のころには、原生生物学会若手の会会長も務めた。そこで主催した講演をきっかけに中垣俊之先生と交流を持つなど、人との縁が次の研究へと自然につながっていった。博士取得後、京都大学でポスドクをしていたころに北海道大学電子科学研究所から原生生物関連の公募が出たことを知り、「これは自分のための募集ではないか」と思い込み応募し、着任に至った。
分野や組織に縛られず、問いに正直に進んできた道のりが、現在の研究スタイルを形づくっている。

CHAPTER 2

原生生物の「動き」から、生命の原理に迫る

 

西上准教授が現在取り組んでいる研究テーマは、原生生物の行動や運動の仕組みを理解することだ。原生生物は単細胞でありながら、環境に応じて驚くほど柔軟で賢い振る舞いを見せる。その「動き」にこそ、生命の本質が隠れていると考えている。
「正直に言うと、すぐに何かの役に立つ研究ではありません。ただ、原生生物で使われているタンパク質の多くは、人間と共通しています。パーツは同じなのに、組み合わせ方次第で全く違う振る舞いが生まれる。その多様性が、とにかく面白いんです」
細菌とは異なり、原生生物は真核生物であり、人間に近い存在だ。テロメアやリボザイムなど、基礎生物学の重要な発見も原生生物研究から生まれてきた。西上准教授は「マニアックに見える基礎研究が、後に社会を支えてきた」と語る。
また、赤潮や貝毒、アオコといった環境問題との接点も意識している。直接的な応用を狙うというよりも、水域や陸域に生きる生物の振る舞いを深く理解することが、結果的にSDGs(目標14:海の豊かさを守ろう、15:陸の豊かさも守ろう)につながると考えている。

研究手法も極めて多様だ。フィールドでのサンプリングや顕微鏡を使った素朴な観察に加え、古典力学、数理モデル、プログラミング、さらには実験装置の自作まで行う。研究室には多種多様な原生生物が飼育されており、「たくさん飼っていること」自体がラボの強みになっている。
「きれいに整った環境で観察するだけではだめなんです。生き物をあえて困難な状況に置くことで、原生生物の“本気”を垣間見る。いざとなれば私たちの想像以上のことを彼らはするんです。」
コンピューター制御のフライス盤を用いて微小環境をつくり、自作の顕微鏡で生物の行動を三次元的に捉える。解析プログラムも自ら組み、理論研究者やシミュレーション担当の教員とラボ内で密に連携する。「この現象を理解するには、あの方法を取り入れるしかない!」と柔軟に新しい手法に挑戦する姿勢が、西上准教授の研究の原動力だ。
原生生物の動きに潜む原理を探る研究は、生命とは何かという根源的な問いへと静かにつながっている。

CHAPTER 3

人と分野が交わるところに、研究が動き出す

 

西上准教授にとって、研究は決して一人で完結するものではない。これまでの研究人生を振り返ると、常に「人との出会い」が次の展開を生み出してきた。
アライアンスとの関わりも、その延長線上にある。
「本当に、たまたま隣にいたんですよ。」曽宮正晴准教授(阪大産研:前回インタビュー記事参照)と全く同じセリフで笑った。
西上准教授は、九州大学でのアライアンスの会合で偶然隣に座った曽宮准教授との出会いを今でも印象深く覚えているという。
「自分がポスドク時代に本気で取り組んできたことを、必要とする人が横にいたんです。」
普段は公式な場でほとんど話さない京都大学時代の研究が、ここで共同研究に結びついた。研究背景を語る中で、異分野の研究者と議論が生まれ、それが新たな視点につながっていく。田中賢先生との出会いを通じて「中間水」という概念に触れ、自身の研究の幅がさらに広がった。

共同研究について尋ねると、「すべてが思い出深い」と即答する。研究室内での共同研究はもちろん、昆虫や魚類、植物、有機・無機化学の研究者との交流など、異分野との接点も少なくない。西上准教授は、学生もまた対等な共同研究者だと考えている。
「僕とその学生にしかできないことをやりたいんです。本気で取り組めば、必ず何かが出てくる。その経験を積み重ねることが大事だと思っています」
原生生物がもし人間と同じ大きさだったら、どのように見えるだろうか。そんな想像を交えながら研究を語る姿からは、生物を“研究対象”としてではなく、“ともに向き合う存在”として捉えている姿勢がうかがえる。人と分野が交わるところにこそ新しい研究の芽が育つ、それが西上准教授の実感なのだ。

CHAPTER 4

科学を楽しみ、盛り上げたい

 

自身の研究のゴールについて尋ねると、「正直、あるのかどうか分からない」と率直に答える。
「“人の役に立ちなさい”と親には言われてきました。でも、みんなが考えないようなことをやるのが、自分の役割なのかもしれません。何がどう役立つかすぐに分からないことにも、やる意味があると思っています。」

すべてが同じではなく、すべてが違う。原生生物の世界に向き合う中で感じてきたその感覚は、研究そのものの在り方にも重なっている。すぐに答えが出ない問いを抱え続けること、それ自体に意味があると考えている。
将来、どのような研究者でありたいかと尋ねると、「楽しみたいし、他人を楽しませたい」と返ってきた。研究の過程で生まれる障壁をできるだけ低くし、誰かが次の一歩を踏み出しやすい環境をつくりたいという。
また、原生生物研究という分野そのものを盛り上げたいという思いも強い。きちんと研究に取り組んだ人が、きちんと次のポジションに進める。そんな循環をつくることが、将来的な目標の一つだ。
「科学全体が、より楽しく、より盛り上がるといいですよね。」
ゴールが定まらないからこそ、問い続ける。西上准教授の研究は、そんな姿勢そのものを体現している。

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    休日は、家族と過ごしています。小学生と幼稚園の二人の子どもと一緒に、冬はよくスキーに出かけます。ここ二年は週二回、上の子をスキー教室に連れて行っています。スキー教室の時間、私は下の子を先頭にファミリーゲレンデを滑る係です。
    スケートも身近な存在で、小学生から大学までショートトラックに打ち込んできました。スキーがない日は子供と一緒にスケートも滑ります。

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    走るのが好きで、フルマラソンにも挑戦しています。一番早いときで4時間ちょっとくらい、今だと5時間を切るくらいです。ベアフットシューズという、薄底の靴で走り、身体の使い方を考えながら走っています。
    学会などで出張した際にも、滞在先で走って街を探索するのも楽しみです。ベアフットシューズで走ることで、足裏から伝わるアスファルトの感覚から町の歴史を考えたりします。

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    こだわりのウィスキー

    液体にこだわる!?

    なんでも美味しく食べられるタイプと自分では思っているのですが、周りからの評価は異なるようです。確かに、コーヒーは豆の種類や焙煎方法などを指定して注文することが多いです。ウィスキーも学生の時は、特定の産地のものを全部買って飲み比べるなどして楽しんでいました。調味料も特に醤油はいいものを使いたいです。「液体にうるさいやつ」と周りは思っているそうです(笑)。

西上 幸範NISHIGAMI, Yukinori

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