インタビュー

#02 後藤知代准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

挑戦者たちの素顔 後藤 知代 メイン 挑戦者たちの素顔 後藤 知代 メイン

多岐に渡る人材との交流を経て
研究の視野を広げる

#02後藤 知代

GOTO, Tomoyo
大阪大学高等共創研究院
兼 産業科学研究所
CHAPTER 1

機械工学から材料科学の世界へ。

ありとあらゆる生命の源となる水。安全安心な水がいつでも手に入る日本、しかし世界を俯瞰すると水資源は様々な課題を抱えている。水問題の解決は、SDGsでも持続可能な発展をめざす目標の一つに挙げられている。水に対する様々な課題解決に材料から取り組む研究者たち。大阪大学高等共創研究院・産業科学研究所の後藤知代准教授は、セラミックスという、ありふれているが奥深い材料から水問題にアプローチする若手研究者の一人である。

後藤准教授は近畿大学生物理工学部、奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科を経て名古屋大学大学院工学研究科の博士課程で学んだ経歴をもつ。 「学部生時代は機械工学を学び、指導教官の速水尚教授の勧めで化学へ転向、大学院では材料科学を学びました。大学や研究テーマは3度変わりましたが、学部時代から大学院まで研究対象は一貫して骨の成分としても知られるハイドロキシアパタイトです」。
 修士課程では谷原正夫教授の研究室で軟骨再生用材料の研究を学び、博士課程では大槻主税教授に師事しハイドロキシアパタイトの結晶を作る面白さにのめり込んだ。セラミックス合成分野ではポピュラーな「水熱合成法」、このシンプルだが奥の深い材料合成技術を極めつつ、より広く役に立てる材料の開発を目指した。

「水熱合成法は、シンプルですが奥が深い。選ぶ条件によって様々な面白い材料が生み出せます。合成実験は料理と似ているかもしれません。同じ調理器具を使っても、食材や調味料、シェフの手順が違うと全く違うものができる。水熱容器のオートクレーブは圧力鍋に近いもので、内部を高温・高圧状態にして結晶を合成できます。短時間で結晶材料を得ることができ、結晶の形や、さらには機能も容易に変えることができる。そこが魅力です」。 博士号取得後、九州大学大学院工学研究院、産業技術総合研究所の研究員を経て、2015年に大阪大学産業科学研究所に助教として着任、2021年4月からは高等共創研究院准教授として研究を続けている。

CHAPTER 2

水熱合成法を核に世の中で使われる材料を。

 

後藤准教授はいま、水熱合成法をコア技術として、ハイドロキシアパタイトだけでなく多様なセラミックス材料の研究に取り組んでいる。シンプルな技術を生かした材料研究の強みとは何か、後藤准教授に聞いた。 「水熱合成法は、少ないエネルギーでセラミックスを合成できる省エネルギーな材料合成方法の一つです。合成方法もいたってシンプル。誰でもすぐに取り組むことができ、水熱合成法に関する研究分野では、世界中にたくさんの研究者がいます。ある意味、レッドオーシャンの研究分野かもしれません。シンプルですが奥が深く、類似した組成の材料であっても、その結晶構造や形態が異なるだけで異なる機能を示す材料を生み出すことができる。その水熱合成の利点を生かした結晶構造制御技術が私の強みです。汎用的な技術を使って新しい材料を生み出すことは容易ではありませんが、再現性高く物質を作れるようにすることを常に心がけています。かつて師事した先生からの言葉に“分かれ道では茨の道を選びなさい”というのがあります。独自性が出し難い、しかし奥が深い水熱合成法の追求は、茨の道かもしれません。私は、道の先にある答えを目指し、世の中の声を聞きながら必要とされる材料を生み出せる研究者になりたいと思っています。」

現在進めている「水」の課題に対して興味がわいたのは、九州大学で研究員として汚染物質除去材料開発のプロジェクトに従事したことがきっかけだった。「材料は、ある目的のために研究していたら、全く違う分野で役に立つこともあります。水をきれいにするというテーマもそうです。博士課程までは、研究対象であるハイドロキシアパタイトを骨を治す生体材料としてしか見ていませんでした。しかし、九州大学に異動し環境浄化材料としても利用できること、結晶形態制御技術が材料設計に生かせることを学びました。そこから私の研究を社会に役立てる可能性がさらに開けたと感じています。」

そこで重要になるのが、国内外の多様な分野の研究者との交流である。自身の研究テーマや開発している材料がどのような場所、環境で使われることが適切なのか、広い視野で俯瞰することができるようになったという。「今は、ハイドロキシアパタイトだけでなく海苔のような形状をもつチタン酸ナノシートなど他の機能性材料の開発も進めています。研究成果を展示会などで紹介すると、具体的な応用に関する相談や、予想もしない利用への問合せも頂きます。企業との共同研究や多様な分野の研究者とのコラボレーションを広げて、強みを生かした取り組みを模索できれば面白いなと思っています。」

CHAPTER 3

様々な人との交流が研究のすそ野を広げる。
アライアンスはその最適な場。

 

大阪大学に着任以来、後藤准教授は“クロスオーバーアライアンス”での活動にも積極的に参加してきた。特に、“物質・デバイス領域共同研究拠点”における、大阪大学産業科学研究所が幹事として2019年に開催したアライアンス若手研究交流会の実行委員長としての活躍だ。交流会の企画運営やマネジメントを学ぶとともに、若手や異分野研究者との交流を深めることができた。

「アライアンスの場では、有機、無機、バイオ、計測や情報など異なる分野の研究者が集まっています。気迫あふれる若手研究者から経験豊かなベテラン教授陣、さらには産学連携や国の政策などに詳しい研究サポートスタッフなどに囲まれ、異分野交流の機会や新たな知見の獲得、イノベーション創出の可能性があちこちに潜んでいます。研究者にとってはワクワクとする場で、成長の場であるとも言えるでしょう。2019年に開催したアライアンス若手研究交流会では、 “ええやん!頑張ってるで、若手!”のサブテーマを掲げ、所内の若手研究者らと若手交流の場を企画できたことはかけがえのない経験です。最近も、アライアンス分科会に参加し、他研究所の方との多くの共同研究の案を得ることができました。これからも積極的に、クロスオーバーアライアンスの活動に関わってゆきたいと考えています。」

さらに、このような活動を協会誌「セラミックス」の企画特集に生かすなど、活動の場をさらに広げることができたという。「きっかけは、 “アライアンスの若手研究者の特集企画をしてはどうか”、 とアライアンスの若手の先生方からいただいた提案でした。特集では、機関や研究所の枠を超えた若手研究者の異分野融合研究についてセラミックス以外の多彩な研究も紹介することができました。企画をお認めいただいた当時のアライアンス関係者および日本セラミックス協会の皆様には感謝しております。」

CHAPTER 4

水問題解決の一助となる新たなセラミックス創出を目指して。

 

後藤准教授が現在取り組んでいるのは、水浄化材料の研究だ。世界を見渡すと、単に汚れた水、というだけでなく、地下水に飲料水としては好ましくない重金属イオンが多く含まれている地域もある。一方、水浄化材料は、水をきれいにするだけでなく、排水中の様々な希少金属イオンを吸着できれば、製造現場や産業廃棄物現場で放出されるメタルリサイクルの基礎技術にもなり、資源に乏しい日本の元素戦略にも貢献できる。
ナノレベルで精密に制御して合成された新たなセラミックスで地球規模の社会課題解決に貢献したいと語る後藤准教授。その目標は医療の課題から水資源の課題、さらにはレアメタル資源の課題へと向かっている。

「地球や命の源である水、限られた資源を大切にするために、セラミックス材料研究を通じて少しでも貢献できるのではと考えています。そのためにも、様々な人との交流、出会い、学びを大事にして、成長し続ける研究者になりたいと思っています。」

OFFTIME TALK

  • ウィークエンドの過ごし方

    お茶の試し飲み

    息抜きのお供。

    私は、ONとOFFの区別があいまいになりがちなのですが、息抜きにお茶を試し飲みして過ごすのが好きです。例えば台湾茶は、兄が台湾駐在時によく買ってきてくれたのがきっかけで好きになりました。台湾茶といっても産地や発酵度など様々な種類があります。多彩な味にすっかり惚れこんでしまい、私の大切なお共です。

  • ティーブレイク

    夕暮れの散歩でリフレッシュ

    故郷の自然に触れる。

    長期休暇の時は、故郷の和歌山に戻り過ごしています。川辺を散策したり、田畑の風景を眺めたりして散歩することで運動不足を解消し、気分転換します。季節の移り変わりにより、風景や風が刻々と変化しますので、飽きることはありません。

  • 猫との暮らしを夢見て

    学会で訪れたハンガリーの街並み

    美術鑑賞も楽しみの一つ。

    学生時代、美術部に在籍していたこともあり、絵や彫刻、歴史的な建築物を見るのが好きです。特に絵画は、画家の筆遣いや心情、絵が描かれた歴史的な背景が興味深いです。最近は、美術館や海外へ行けていませんが、外国の歴史的な街並みも大きな美術作品を見ているようで楽しいですね。

後藤 知代GOTO, Tomoyo

大阪大学 高等共創研究院
兼 産業科学研究所 第2研究部門 先端ハード材料研究分野 准教授

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