インタビュー

#15 猪石篤准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

挑戦者たちの素顔 猪石 篤 メイン 挑戦者たちの素顔 猪石 篤 メイン

「なぜだろう」を追い続ける。
知的好奇心が切り拓く次世代電池の世界

#15猪石 篤

ATSUSHI, Inoishi
九州大学先導物質化学研究所
 
CHAPTER 1

「なぜだろう」が出発点 ー 固体酸触媒との出会い

ポストリチウムイオン電池として世界的に注目される全固体電池や全固体フッ化物電池、塩化物電池。その新たな電解質・電極材料の開発に挑んでいるのが、九州大学先導物質化学研究所(先導研)の猪石篤准教授だ。

もともと、猪石准教授が大学を志したのは教育への関心からだった。「中学の部活の顧問の先生が本当に熱い方で、生徒に真剣に寄り添ってくれる姿に憧れました。学校の先生になろうと思って東京学芸大学に進んだんです」。しかし研究との出会いが、その進路を大きく変えることになる。

転機は学部4年で研究室に入ったときだった。固体酸触媒を研究する中で、「非常に強い固体酸性を示す現象」に遭遇する。「なぜそこでそれが出るのか、理由がわからない。でも、その謎がとにかく面白くて」。答えの見えない問いに向き合う日々は、授業で習う「答えのわかっている実験」とはまるで違う体験だった。「誰も知らないことを自分で明らかにしていく——その感覚で世界が変わりました」。

様々なファクターを一つひとつ検証し、材料の作り方や組成を微妙に変えながら分析を重ね、「おそらくこの説明が最もリーズナブルではないか」というところまで整理したのが修士論文となった。「当時、研究がとても楽しかったのを覚えています。元旦以外は実験していました(笑)」。

文献調査に時間をかけすぎず、直感で「これはどうだろう」と手を動かしながら研究の方向を探る。「実験中に当初の狙いから脱線して、それがメインになったこともあります。人がまだやっていないところは、実験の中で見つかることが多い。研究者としての"勘"は、今も大事にしています」

CHAPTER 2

電気化学の世界へ ー 九大博士課程での転換

 

「触媒の研究はこんなに楽しいんだから、続けたい」——そう感じた猪石准教授は、修士修了後も研究の道へ進む決意をした。九州大学大学院のオートモーティブサイエンス専攻の博士課程では、指導を受けた石原研究室で固体酸化物型燃料電池を応用した金属空気二次電池の開発に挑んだ。

これが電気化学との最初の本格的な出会いだった。材料科学と電気化学が交わる領域で、博士号取得後も九州大学に残り、キャリアを積み重ねていく。2019年に先導研に着任し、2023年12月に准教授に昇進。現在は「革新型電池」の開発に向け、新たな電解質・電極材料の探索を続けている。

研究のアプローチは学生時代から変わらない。まず現象があって、なぜそれが起きるのかを考える。材料の作り方や組成をわずかに変えながら変化を追い、分析を重ねていく。「狙ったものができることもあれば、全然うまくいかないこともある。でも、そのどちらも整理していくと、"分かった"という瞬間が来る。その過程、ああでもないこうでもないと考え続ける時間が一番面白い」。

CHAPTER 3

アライアンスで広がるネットワーク ー 塩化物電池への挑戦

 
 

クロスオーバーアライアンスとの接点は、かつての研究室のネットワークを通じてのつながりから生まれた。若手フィージビリティスタディ(FS)課題では、東北大学(現・名古屋大学)の中村先生、徳島大学の大石先生とともに塩化物電池の材料開発に取り組んできた。「今も年に1回程度はどこかの大学に集まって議論しています」。

アライアンスの価値についてはこう語る。「若手が異分野の先生と出会える良い機会だと思っています」。一方で率直な課題も指摘する。「先生方は業務多忙で余裕がない。参加することで新たな交流がうまれることは分かっているが、タイミング的になかなか参加できないことも多い」。

産学連携についても独自の視点を持つ。「私はかなり将来型の革新型電池の研究を行っていて、すぐにお金にならないようなこともやっているが、賛同して一緒に汗を流してくれる企業もある。」遠い未来を見据えた材料開発を一緒に進めてくれる企業との関係を、猪石准教授は心から大切にしている。

CHAPTER 4

サイエンスへの本音、そして教育への想い

 
 

将来の姿を問うと、猪石准教授はまず「知的好奇心を満たす研究をやりたい。その中で、新しい材料もいろいろ生まれてくると思います」。

目指す研究者像はシンプルだ。「他の研究者がまだ気付いていないような、でも電池材料の本質に関わることを明らかにしたい」。次世代を担う研究者へのメッセージにも、その信念が滲む。「研究活動は本来、知的好奇心がモチベーションになるはずです。それを感じられたら、とても充実した研究活動、人生が送れると思っています」。

もうひとつ、猪石准教授が密かに大切にしているものがある——教育だ。「実は、研究以上にやりたい気持ちがあります」とはっきり言う。もともと教員を目指して大学に入り、これまで教えを受けてきた教員たちの姿に憧れた原点が、今もしっかりと根を張っている。「学生と議論して、好きにやらせながら面白さを伝えたい。それが本当は一番やりたいことです」。

「なぜだろう」という問いを持ち続け、その答えを自分の手で確かめていく。そのシンプルな喜びを次世代へとつないでいく研究者として、猪石准教授のフィールドはさらに広がっていきそうだ。 

OFFTIME TALK

  • 子供とスキー

    休日は家族と、そして歩きながら考える

    休日は家族と、そして歩きながら考える

    休日は家族と過ごす時間を大切にしている。日常の買い物に出かけたり、YouTubeでリラックスしたりと、穏やかな時間を過ごす。もう一つ、猪石准教授が意識して続けていることがある。「なるべく歩くようにしています。できれば家の周りを1日1時間くらい」。実はこの散歩の時間が、研究のアイデアが湧いてくる絶好の機会でもある。「通勤中に歩いているときにひらめくことが多い」。身体を動かすことで思考が解放され、思わぬ発想が生まれることを、身をもって体感しているのだ。

  • ランニングの経路

    根っからの楽天イーグルスファン

    根っからの楽天イーグルスファン

    「楽天イーグルスのファンです」と笑顔で話す猪石准教授。もともと出身の群馬に球団はなく、2001年のローズ・中村紀洋を擁した強力打線で優勝した時代から近鉄バファローズのファンで、野球を追いかけてきた。「球団合併でどこを応援しようかと思っていたところ、楽天が生まれて。そのままイーグルスを応援するようになりました」。シーズン中の土日のデーゲームは自宅で観戦し、時々ドームにも観戦にいく。

  • ウィスキーのボトル

    出張先のラーメンが密かな楽しみ

    出張先のラーメンが密かな楽しみ

    学会などで地方や海外に出向いた際の楽しみは、一人でラーメンを食べに行くことだ。「特に二郎系が好きで、出張先でも探してしまいます」と笑う。研究室を訪ねてくれたゲストの先生と食事をするときには、博多駅周辺のお店へ行くことが多い。「もつ鍋は色々なお店に行っていて、最近はお気に入りのお店が決まりました。皆さん福岡での食事は喜んでくれます」。

猪石 篤INOISHI, Atsushi

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