インタビュー

#16 岩瀬和至准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

挑戦者たちの素顔 岩瀬 和至 メイン

電極触媒に光を当て、エネルギー変換の未来を拓く

#16岩瀬 和至

IWASE, Kazuyuki
東北大学多元物質科学研究所
 









CHAPTER 1

超伝導から電極触媒へ——出会いが導いた研究の道

電気を使って物質やエネルギーを変換する——そのプロセスを陰で支えるのが「電極触媒」である。水を電気分解して水素を取り出す水電解、二酸化炭素を有用な物質へと変えるCO2電解。エネルギー変換とカーボンニュートラルの実現に直結するこの分野で、活性の高い触媒材料の開発に情熱を注いでいるのが、東北大学多元物質科学研究所の岩瀬和至准教授だ。

 岩瀬准教授の原点は、高校時代の化学の授業にある。「実験をよく見せてくれる先生で、いろいろなものを混ぜると色が変わる。それを見て、化学って面白いなと思ったんです。」そう振り返り、化学への興味を胸に東京大学へ進学した。さまざまな分野に関心を寄せる中、学部4年では超伝導の研究室に所属した。修士課程から電気化学の研究室に籍を移し、物質のエネルギー変換というテーマと出会う。ここでのテーマが、電極触媒という現在に至る核となった。

 博士課程では、高分子と金属原子を組み合わせた分子触媒の活性を高める研究に取り組んだ。学位取得後は助教として東北大学多元研に着任する。最初に配属されたのは、無機材料を専門とする本間研究室だった。「本間先生が無機材料をやられていたので、そこからより無機材料、より水電解やCO2電解といった、電流値をどんどん出していく反応にシフトしてきた」と振り返る。分子触媒から無機材料へ、そして今取り組む電極触媒の研究へ。一つひとつの出会いが研究の幅を広げ、現在の岩瀬准教授を形作ってきた。2023年からは笘居研究室に所属し、研究を続けている。

CHAPTER 2

異分野の視点が生きる、材料設計の面白さ

 

「今メインでやっているのは水電解とCO2電解の研究です」と岩瀬准教授は語る。エネルギーを物質に変換するといっても反応の種類は数多い。その中でも岩瀬准教授が惹かれるのは、電極触媒という「材料」そのものを設計し、性能を引き出していく面白さだという。

 学生時代に培った分子系触媒の視点は、今の研究にも息づいている。「元々、酵素や錯体に近い材料を扱っていたので、触媒というだけでなく物理化学的な視点が必要でした。」学生時代から放射光施設 SPring-8 を使った解析や理論計算にも力を注いできたことも、大きな強みになっているという。「バックグラウンドとして非常に生きている」と語る岩瀬准教授の言葉には、異なる分野を渡り歩いてきたからこそ得られた独自の視座がにじむ。

 実験がうまくいかない時期があっても、岩瀬准教授はそれを失敗とは捉えない。「思った通りにいかないことは、基本的にあんまり失敗だと思っていない」ときっぱり。原因を一つひとつ検証し、可能性を絞り込んでいく過程こそが、材料研究の醍醐味だと話す。活性の高い触媒がひとつ生まれるたびに、物質とエネルギーの関係に新たな理解が加わっていく。その積み重ねが、岩瀬准教授を研究へと駆り立てている。

CHAPTER 3

恩師と野球——二つの軸が育てたもの

 

岩瀬准教授の人格形成には、数々の恩師との出会いが深く関わっている。修士時代に指導を受けたのは、現在JST理事長を務める橋本和仁教授の研究室だった。「私が博士のときに、橋本先生がNIMSの理事長になるということで研究室を離れられて。」学籍は東京大学の宮山勝教授の研究室に置きながらも、橋本研で准教授を務めていた中西周次先生が大阪大学教授へ転じたことをきっかけに、東京大学と大阪大学をかけもちで研究活動に取り組んだこともある。「いろんな先生にお世話になり、それが今にも生きている。非常にありがたい。」当時を振り返る言葉には、感謝の思いがにじむ。

 もう一つ、岩瀬准教授の背骨となっているのが野球だ。東京大学時代は硬式野球部に所属していた。ある時、色紙に書かれた言葉が今も心に残っているという。「野球は勝てなかったかもしれないけど、研究は一流になれるように頑張ってください。」ユーモアを交えながらも、まっすぐに研究に向き合うようにと背中を押してくれた言葉だ。
 
好きな言葉として挙げるのも、やはり野球にまつわるものだった。イチロー選手の「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」。将来の夢やデバイス化という大きな目標があっても、そこにたどり着くには一段一段、目の前の課題を解決していくしかない。その姿勢は、研究にも、野球にも通じている。

 

 

CHAPTER 4

興味と社会実装、その両輪を追い求めて

 

将来的な目標を尋ねると、岩瀬准教授は自身の興味と社会貢献を重ね合わせて語った。「研究は自分の興味でやるものだと思いますが、最後はそれが社会の役に立ってほしい。」水電解やCO2電解の分野では、最終的に研究成果がデバイスという形に落とし込まれる。「そういうところまで展開されたらいいなと思っています。」自らの手掛けた触媒材料が、社会実装という具体的な形に結実する未来を見据えている。

 材料科学、そして電気化学という専門領域において、物質とエネルギーの変換に関する課題は依然として山積している。「そこに革新的な進歩を起こせるような研究者になりたい」と、岩瀬准教授は力を込める。基礎的な興味の追求と、実用化という出口の両方を見据える姿勢は、今後の研究の広がりを予感させる。

 チャレンジしたいことを聞くと、「社会に必要とされていることを自分のものとして世に出せたら一番ベストだと思います」と即答した。社会に必要とされていることを、自分の軸や興味の延長線上で実現する。それが今の岩瀬准教授にとっての最大の目標だという。

 次世代の研究者へのメッセージも、やはり野球にたとえて語ってくれた。「三振するのは失敗ではない。打席に立たないことがもったいない。」場数を踏み、挑戦を重ねること。それこそが岩瀬准教授自身が歩んできた道であり、これからの若手研究者に伝えたい一番のメッセージだ。今後、岩瀬准教授がどのような触媒材料を世に送り出していくのか、期待は膨らむばかりである。

OFFTIME TALK

  • 草野球でリフレッシュ

    草野球でリフレッシュ

    週末は野球三昧

    オフの日はプロ野球観戦へ。地元仙台の東北楽天ゴールデンイーグルスの試合をよく見に行く。自身も草野球チームに所属しており、多元研の安達准教授に誘われて参加。土日の朝6時プレーボールという早朝スタートで、これは医師など仕事のある人でもその後出勤できるようにという配慮なのだそうです。

  • ティーブレイク

    仙台はそばが美味い

    仙台の美味しいもの巡り

    もともと父親が香川県出身ということもあり、うどんが好きだった。ところが仙台に来てからは蕎麦の魅力にひかれ、今では気になる店を見つけては食べに行くことが楽しみの一つになっている。蕎麦打ち体験にも足を運ぶなど、食べるだけでなく、自分で作ることにも関心を広げており、忙しい研究生活の合間に食に向き合う時間が、気持ちを切り替える大切な息抜きになっている。

  • 海と夜空に心動かされて

    マンタに遭遇

    海と夜空に心動かされて

    感動した旅の思い出は二つ。一つは沖縄でのスキューバダイビング初体験。水面を泳ぐのとは全く違う世界が海の中に広がっていたことに衝撃を受け、いつかライセンス取得を目指したい。もう一つはシンガポールで見た年越しの花火。夜空を彩る光の演出に、しばし時間を忘れて見入ってしまった。

岩瀬 和至IWASE, Kazuyuki

東北大学多元物質科学研究所
(取材年月:2026年6月)

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