インタビュー

#17 太田竜一准教授

ON × OFF Interview 挑戦者たちの素顔

挑戦者たちの素顔 太田 竜一 メイン

「誰もやっていない」に惹かれる。光で“冷やす”技術から、新しい研究の可能性を拓く

#17太田 竜一

OHTA, Ryuich
北海道大学 電子科学研究所
 









CHAPTER 1

ものづくりの興味から、光を探求する研究者へ

小さい頃から、ものを作ることが好きでした」。そう語る太田竜一准教授の研究者としての原点は、子どもの頃にさかのぼる。理科や算数、数学が好きで、小中学生の頃には電子回路を組み立て、ブロック遊びにも夢中になった。東京都東久留米市で育った太田准教授は、ものづくりへの興味から高等専門学校へ進学。その後、さらに深く学びたいという思いから東京大学へ進み、博士課程まで研究を続けた。

学生時代に取り組んだのは、フォトニック結晶など、人工的な微細構造によって光の性質を制御する研究だった。このとき身につけた微細加工や光を操る技術が、現在の研究にもつながっている。

博士課程修了後はNTTの研究所へ。約10年間、基礎研究に携わった。そこで取り組んだテーマの一つが、物質の機械振動を極限まで冷却し、そのときに現れる量子的な運動を生成・制御する研究だった。

企業での研究生活を経て、2020年に北海道大学へ。「企業にいた頃、学生と一緒に研究する機会がありました。学生が成長していく姿を見るのが面白くて、すごくやりがいを感じたんです」。企業とは異なる立場から、自ら研究の方向を決め、学生とともに研究する。そんな環境を求めてアカデミアへとフィールドを移した。

子どもの頃のものづくりへの興味から、光を操る研究へ。そして企業での研究経験を経て、現在のレーザー冷却の研究へ。研究テーマは発展しながらも、「光や物質の振る舞いを理解し、自らの手で新しいものをつくる」という姿勢は、一貫して現在まで続いている。
 

CHAPTER 2

光を当てて“冷やす” ― レーザー冷却の新たな可能性

 

現在、太田准教授が取り組んでいるのが「レーザー冷却」の研究だ。
レーザーを物質に当てると、一般にはエネルギーを吸収して温度が上がる。しかし、条件を整えることで、その逆の現象を起こすことができる。物質が吸収した光よりも高いエネルギーの光を外へ放出させることで、その差に相当する熱エネルギーを物質から取り除き温度を下げる。

「簡単に言えば、物質の熱を光に乗せて外へ運び出すことで冷やします」

こうしたレーザー冷却の研究には長い蓄積があり、これまでは、いかに冷却性能に優れた材料を作るかという材料開発が研究の中心だった。近年は材料開発が進展する一方で、その技術をどのように発展させ、応用につなげていくかという研究も進められている。

そこで太田准教授が生かそうとしているのが、学生時代から培ってきた微細加工やナノフォトニクスに関する技術と知見だ。

「これまでずっと、微細なフォトニック構造を作ってきました。そうした技術や知見をレーザー冷却と組み合わせることで、これまでの限界を超えられるのではないかと考えています」。

レーザー冷却には、従来の冷却技術にはない特徴がある。その一つが、光を使って非接触で冷却できることだ。配管や配線を接続することが難しい環境でも、離れた場所から光を照射して冷却できる可能性がある。さらに、非常に小さな領域を選択的に冷やせることも大きな特徴だ。既存の冷却技術では難しい、マイクロ・ナノスケールの「必要な場所だけを冷やす」という使い方も考えられる。

テラヘルツ波や赤外線を検出する高感度センサーをはじめ、低温環境を必要とするデバイスへの展開も期待される。

「今あるレーザー冷却の限界を突破するような研究をしていきたいですね」

光を操る技術と冷却を組み合わせることで、これまでとは異なる冷却技術の可能性を切り拓く。太田准教授の研究は、そんな挑戦を続けている。

CHAPTER 3

異なる技術との出会いが、研究を次へ動かす

 

クロスオーバーアライアンスの分科会への参加は、太田准教授の研究に新たな接点をもたらした。

「すごく運が良かったのですが、ちょうど自分が必要としていた技術を持っている先生がおられました」

その場で交流が始まり、その後は継続的な共同研究へと発展。学会発表にもつながったという。異なる研究分野の研究者が集まり、普段の研究活動だけでは接点を持ちにくい研究者同士が出会う。そこにアライアンスならではの価値がある。太田准教授には、企業研究者時代にも、異なる立場の人と研究することの面白さを実感した経験がある。大学から学生を受け入れ、一緒に研究したときのことだ。

「学生と研究すると、単に研究が進むだけではなくて、自分たちとは違う見方で研究を見ることができます。『ここが分かりにくいんだ』『実はここがボトルネックなんだ』と、改めて気づくことがあるんです」

自分とは異なるバックグラウンドを持つ人との交流は、それまで見えていなかった研究の課題や可能性に気づくきっかけになる。アライアンスについても、「研究とは直接関係のない話を聞くことも刺激になります」と話す。すぐに共同研究につながる出会いだけが重要なのではない。異なる分野の考え方や技術に触れることそのものが、研究を見直すきっかけになる。

「毎回参加するのは時間的に難しいかもしれませんが、2、3年に一度でも参加すると、新しい出会いや研究のきっかけになると思います」

自分にはない技術や視点と出会い、それを自身の研究と結びつけていく。アライアンスでの交流は、太田准教授の研究を次のステージへ動かす一つのきっかけになっている。

CHAPTER 4

「誰もやっていないところ」に、最初のピースを置く

 

将来、どのような研究者になりたいのか。そう尋ねると、太田准教授は、学生時代に聞いたある言葉について話してくれた。

「研究者は、誰もやっていないことをやることに価値がある、という話を退官される先生から聞いたことがあります」

自分がやらなくても、いずれ誰かがやる研究ではなく、まだ誰も取り組んでいない、あるいは誰も発想していない研究に挑戦する。その考え方は、自身の研究スタイルとも重なるという。そこには、企業研究者時代の経験も影響している。当時は比較的小規模な研究グループで研究を進めていた。同じテーマを大きな研究グループと競えば、人的・資金的なリソースの差もある。「少し先に行っても、すぐに追いつかれてしまう。だったら、本当に誰もやっていないことをやる」。そう考えるようになったことが、現在の研究スタイルにもつながっている。

では、「誰もやっていないこと」は、どのように見つけるのだろうか。

「これはなかなか、うまく言葉にはできないんです」

そう前置きしながら話してくれたのが、自分の研究を常に少し批判的に見るという姿勢だった。研究には当然、良いところがある。一方で、「これはできるけれど、ここには問題がある」「なぜここはできないのか」と、疑問や課題を持ち続ける。そうした状態で異分野の技術や人との会話から新しい情報が入ってくると、「これを使えば、あの問題を解決できるのではないか」と反応する瞬間があるという。幅広いことに興味を持ちながら、一つひとつを理解する。そして、自分の研究に対しても疑問を持ち続ける。蓄積された知識と課題意識が外からの刺激と結びついたとき、新しい発想が生まれる。

一方で、批判的に見るだけでは研究は前へ進まない。

「どこかでは『これはここまででいい』『これは十分良い成果だ』と肯定することも必要です」

自分の研究を問い直す視点と、成果を認めて次へ進む判断。その両方を持ちながら、新しいテーマを探していく。「自分が何か新しい研究を始めて、それが誰かを刺激して、次の研究につながっていく。そういう研究をしていきたいですね」。既存の研究を発展させることも大切にしながら、自分自身は、まだ誰も歩いていない場所に最初のピースを置きたい。レーザー冷却とナノフォトニック構造を組み合わせる現在の研究にも、その姿勢が表れている。

 

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太田 竜一OHTA, Ryuichi

北海道大学電子科学研究所
(取材年月:2026年10月)

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